サイドキョーコ

あれ?なんで?涙が止まらない。社長邸の応接間で敦賀さんと二人で社長を待っていた。私は初めて見るものばかりでかなり動揺していた。隣で優雅に座っている敦賀さんが憎らしく思えてきて、多分凄く不機嫌な顔をしていたと思う。敦賀さんに眉間の皺を指摘されて不貞腐れてみせた。すると『可愛い顔が台無しだよ』と軽くあしらわれてしまった。破壊力満点の笑顔付きで。「もぉ、敦賀さんなんて知りませんっ!」って勢いよくそっぽを向いて赤くなっちゃった顔をみられないようにした。なのに、敦賀さんったら「そんな顔も似合わないですよ、お嬢さん?」って言いながら私が膨らませている頬を突っつきにくる。「いい加減私なんかで遊ぶのは止めてくださいっ!」と私を突っつく指を両手で掴んで引き離したけど、なんか今の私は涙目っぽい。それだけでも恥ずかしいのに、ポンポンと頭を撫でられていたたまれなくて背中を向けてしまった。なんだか悔しい。本気で悔しくてないちゃいそうだ。

ふいに、「っあっ、あれ何?」と敦賀さんの声に驚いて振り返ったら口の中にお菓子を放り込まれた。悪戯が成功した敦賀さんは堪えられすに笑ってる。
「なんて事をするんですか!しかも騙すなんてあり得ませんっ!」一生懸命睨んで抗議するのに「あははは、騙される方が悪いんだよ。あんなくらいの演技に動揺するなんて、君はまだまだ子供だね。」と、まだクスクス笑っている。

私は言い返す事が出来なかった。敦賀さんのその言葉が、まんま今の情けない私自身を表現していたから。何も言えずに俯くしか出来ない。悔しい、凄く悔しい…。

「京子さん、どうしたの?」
敦賀さんの口調が急に変わった。きっと心配されてるんだ。何か、何か言わなきゃ。顔を上げて『大丈夫』と返さなきゃいけないと解ってるのに、出来ない。どうしても乱れてしまった気持ちを取り繕う事が出来ない…。

「ごめんなさい。私、私は敦賀さんみたく大人じゃないから…。」そんな事をいう所じゃない。声が掠れて震えている。ダメだ、なんとかしなきゃっ!

「えっ…」って敦賀さん困ってる。だめ、今ならまだ間に合うから、何とか取り繕うのよ、私っ!

「ちょっとした事に直ぐに動揺して…」そう、私ったら何もかもが怖くて直ぐに固まってしまうのよ。みっともないよね。
「こんな緊急事態なのに敦賀さんに頼るばかりで…」そう、ただのバカ女。