…数舜の沈黙…

「っあっ、あれ何?」
「えっ?」
蓮の驚いたような声に思わず振り返ったキョーコはいきなり口の中に入ってきたお菓子にまた驚かされる。

「あははは、かかったね。君は単純だなぁ(笑)」蓮は笑いがこらえられないといった感じで笑い続けている。

キョーコは突然口に入ってきたお菓子をモグモグ食べ終えて蓮に抗議する。
「なんて事をするんですか!しかも騙すなんであり得ませんっ!」
「あははは、騙される方が悪いんだよ。あんなくらいの演技に動揺するなんて、君はまだまだ子供だね。(クスクス)」

「………」

自分の軽口にまたキョーコから小気味いい反撃が来る事を期待していた蓮は、急に黙って下を向いてしまったキョーコの姿に慌てた。

「京子さん?どうしたの?」
「ごめんなさい。私、私は敦賀さんみたく大人じゃないから…。」少し声が掠れて震えている。

「えっ…」蓮はキョーコの言葉の意味が解らない。
「ちょっとした事に直ぐに動揺して…」段々声が小さくなる。最後はやっと聞き取れるくらいの声量で、
「京子…さん?」蓮は今まで楽しくからかっていたのに、目の前の可愛い少女に何が起こっているのか解らず、血の気が引く思いでキョーコの名を呼ぶ。
「こんな緊急事態なのに敦賀さんに頼るばかりで…」キョーコの声がますます掠れていく。
「ねぇ、京子さん、どうした?」俯いてしまったキョーコに出来る限りの優しい話し方で声をかける。キョーコの肩を掴み、でも、力が入りすぎないように支えるように優しく引き寄せようとする。でも、キョーコの身体は動かない。

「私がこの3日間に出来た事といえば、泣く事と怯える事くらいで…」キョーコが膝の上に重ねて置いてある手の甲に大粒の涙がいくつもいくつも零れて落ちる。その後、キョーコの声は言葉にならず、声を殺して泣く嗚咽だけが響く。
「ご、ごめん。泣かすつもりはなかったんだ!ちょっとふざけすぎたっ!本当にごめん。もう泣かないで。謝るから、京子さんに泣かれると俺は、俺は困るんだよ!本当にごめん、泣かないで…」
蓮は必死に謝りながら掴んでいたキョーコの肩を強く引き寄せた。今度は何の抵抗もなくキョーコの身体は蓮の腕の中に倒れ込んできた。その温もりをもう離すまいとするかのように、優しく包むように抱きしめる。そしてそれでも泣き続けるキョーコの髪を何度も撫でながら、ひたすら「ごめん」と繰り返すしか出来ないでいた。