サイド蓮

目が覚めた。朝日が窓のカーテンの隙間から差し込む。すごくぐっすり眠れた気がする。今の俺は非常に特殊な環境下にあるというのに、それを忘れてしまいそうなほどの爽やかな朝。それも守るべきこの小さな存在の…ってあれ?
京子さんがいない。眠りに落ちる前にここにいた彼女は幻だったのか!?
慌てて身体を起こしてベッドの端に座るとまた昨夜感じた不安が俺を襲う。俺は額に手を当てて深いため息と共に項垂れる。昨日、社長に言われた言葉が頭に浮かぶ。
『お前は最上くんがいないとただのダメオなんだなぁ…』
全くだ。これほどまでに彼女に依存しているなんて、情けなくて自分でも笑ってしまう。とりあえず顔を洗おう。部屋に備え付けの洗面台を使うのもいいが、なんとなく俺は共用スペースのバスルームに行こうと部屋を出た。

「あ、敦賀さん、おはようございます。朝ごはん食べますよね?」
「えっ?」
鈴が鳴るような可愛い声に呼び止められて、キョロキョロとその声の主を探す。
「やぁ、おはよう。朝ごはん?俺はコーヒーだけでいいんだけど。」と平静を装ってみる。
「だめですよ、ご飯はちゃんと食べなくちゃ。沢山とまでは言いませんが、スープとかだけでも口にしてくださいっ」と可愛く睨まれてしまった。ここは素直に言う事を聞いた方がよさそうだ。あまり食欲がない。いや、体調が悪いという訳ではないんだけれど、お腹がすいたという感覚がない。京子さんに「何か食べたいものとか好きなメニューで思い付くものはありませんか?」と聞かれてもただ困ってしまった。これは記憶がないからか、それとも元々食に対する興味が薄いのか…?

食べ物に対する質問になかなか答えない俺に彼女は少し困った顔をしたが、「とりあえず負担にならない物を見繕ってみますね?それで気に入ったらおっしゃって下さいね。私は用意をしますから、敦賀さんは朝の支度をして来て下さい。」と俺を洗面所に追い出してしまった。

軽くシャワーを浴びて身なりを整え、またリビングに入るとなんともいい匂いがする。これが『美味しそうな匂い』ってやつなのかな?

キッチンから幾つかのお皿をのせたトレイを持って京子さんが出てきて、テーブルに並べ始めた。「敦賀さんは座っててくださいね。」と言われたが、「何か手伝うよ。」とキッチンへ付いていく。じゃあ、これをお願いしますと調味料が乗ったトレイを渡された。
そして二人で一緒にリビングへ。