蓮はお菓子の入った皿をもっていそいそとソファに戻った。ゆったりと座ってみてもなぜか落ち着かない。広いソファの端に座って、ちょっと寂しく感じる。『落ち着け、おれっ!』心の中で必死に自分に言い聞かせながら、それでも座るところが決まらない。
そうこうしている内にキッチンからキョーコが向かってくる足音が聞こえてきて、蓮は焦る。でも、その姿を見られたくなくて、結果として、キッチンに背を向ける形で置いてあるソファの端にこじんまりと座って、キョーコから見えない間に顔を整えようと考えた。

キッチンから飲み物を用意して来たキョーコは背を向けている蓮に声をかけた。
「敦賀さん、おまたせしました。」
「いや、ありがとう。」と何気なさを装う蓮。

キョーコはソファのところまでくると跪いて蓮の前にカップを置いてジャスミンティを注ぐ。ジャスミンの軟らかい香がさっきまでそわそわしていた蓮の心まで落ち着けてくれるようだ。

「もう遅い時間なんで、コーヒーとかだと眠れなくなるかもと思いまして。ここのキッチンすごいんですよ。コーヒーも紅茶もハーブティまでたくさんの種類があって悩んじゃいました。ジャスミンティは気持ちを落ち着ける効果があるそうですから、昨日から色々あって大変だった私達、特に私の分まで色々気遣って下さった敦賀さんにはいいんじゃないかと思いまして選んでみました。」


キョーコが淹れてくれたジャスミンティのカップを持ち口元に近づけるとふんわりとジャスミンの香と暖かい湯気でホッとする。口に含むと穏やかな味が口全体に広がる。こんなにお茶が美味しいと思った事はないんじゃないかと蓮は思う。多分、この状況でキョーコが淹れてくれたお茶だからこそ、こんなに美味しいとかんじるのだろうと思う。
「おいしい、ありがとう。」とキョーコに視線を移して言えば、それまで不安げだったキョーコの顔がぱぁっと綻ぶ。その顔が凄く可愛いと思うと思わず笑み崩れる自分の顔に困る蓮だった。