夕食はローリー、マリアに蓮、キョーコ、社、奏江が同席した。フレンチのフルコースだが、テーブルマナーなどは気にするなとローリーが告げる。記憶がない二人には何ができて何が解らないのか、本人にも周りにもまったく解らないからだ。蓮はローリーを、キョーコはマリアを手本に見よう見まねでフレンチに挑む。が、なぜか卒なくこなせている。社と奏江はそんな二人を見て、『この化物どもめっ!』と毒づいた。

食事を終え、社と奏江は帰り、キョーコは『お姉様、今夜はお部屋に来てくださいませっ!』とマリアに半ば強引に連れて行かれてしまった。
ぐいぐいと手を引かれマリアについて少し嬉しそうに部屋を後にするキョーコを見送っていた蓮だが、扉が閉まると胸の奥がざわつき始めた。そのざわつきを理解出来ずに蓮は戸惑う。
「あい、蓮。一人になるとそんなに不安か?」
ローリーの言葉にはっと我に返り、蓮はゆっくり深呼吸する。『これが不安。不安という気持ちなのか…。』蓮は無意識に握りしめていた手に視線を落とす。
「お前も少し飲むか?」そう言いながらブランデーを勧めるローリー。蓮は受け取ったグラスを回しながらまた小さくため息を零してしまう。今になって昨日病室で目覚めてからの事が一気に頭の中を駆け抜けて行く。目覚める前の彼女、目覚めてからの彼女の笑顔、仕草、温もりにどれほど自分が支えられていたのかを改めて自覚してしまう。もしも…、もしも彼女が一緒じゃなかったら…俺は…?
想像しただけで指先が冷たくなり、震え始める。

怖い、怖い、怖い…

思わず立ち上がっていた。

そんな蓮にローリーは穏やかにたしなめる。

「蓮よ、お前は一人ぼっちじゃない。最上くんはお前の前から消えたりしない。」

「……、ホント…に?」

「しっかりしろよ。お前は本当に最上くんがいないとただのダメオなんだなぁ。」

ローリーはあからさまに呆れたというようなため息をつく。そしてクスクスと優しい笑顔で笑っていた。