サイド奏江
私は背中に届いた社長の言葉に足が止まった。でも、まだ社長の話を聞くきにはなれず、その場で立ったまま。
この社長が社員をいじって遊ぶのはいつもの事。私だけじゃない、あの子もへたれ俳優も、事務所が違うのにラブミー部にいる雨宮さんもいじる対象として認識されている。でも、今の話はだめだ。許せない。私を騙すためにあの子をネタに使うのはかなり譲って許せたとして、記憶がないなんてあまらに非現実的すぎる。そりゃ、ドラマや小説ではよく取り上げられるネタではあるけれど、現実にそんな都合のいい事がそうそう起きないことは、最近の小学生でさえ知っている事だろう。あの子に記憶喪失の演技でもやらせているのかしら。いくらあの子とへたれ俳優がまとまらないからって、焦れてそんなネタを仕込んだりしても仕方ない事よっ。私まで巻き込まないで欲しいわ!
「琴南くん、そのままでいいから聞いてくれ。蓮と最上くんは記憶喪失、専門的には逆行性健忘という状態なのだと報告を受けている。現地に行った松島からの報告だと、自分の名前も忘れてしまっているそうだ。蓮の方は比較的落ち着いていて話もできるそうなのだが、最上くんは覚醒当初からパニックを起こしてしまって、今は唯一蓮にしか心を開かないらしい。主治医は専門外との事で、早めにこちらへ連れ帰って専門的な診察と判断、治療をするべきだとの事で、明日迎えを寄越すんだ。その車に君に同乗してもらいたい。」
社長の話を私はまだ信じる事が出来ない。でも、もしもこれがドッキリで、あの子が記憶喪失役で仕掛人一味なら、その陳腐な演技を見抜いて完膚なきまでに叩きのめしてあげるわ。見てなさい、私を謀ろうなんて10年はやいわよっ!
怒りの矛先は社長からあの子に移り、変に闘志が沸いてきた。
「わかりました。迎えに行けばいいんですね。」
「あぁ、頼むよ。ありがとう。」
詳しい段取りは秘書の男性が説明書を渡してくれた。仕事を浮けはしたもののまだ怒りが収まらない私は、無礼とは思いながらもずんずん出口に向かう。社長はそんな私を咎めることもなくにこやかに見送ってくれていたようだ。
ドッキリでしょ。私を騙しても何のネタにもならないわ。それともあのへたれ俳優に気合いを入れるためのエッセンス?
まずあの子に会ったら一発殴らないと気が済まないわ。いや、殴るのはあの顔だけへたれ俳優ね。現地に向かう居心地の悪い社内でそんな事ばかり考えていた。
私は背中に届いた社長の言葉に足が止まった。でも、まだ社長の話を聞くきにはなれず、その場で立ったまま。
この社長が社員をいじって遊ぶのはいつもの事。私だけじゃない、あの子もへたれ俳優も、事務所が違うのにラブミー部にいる雨宮さんもいじる対象として認識されている。でも、今の話はだめだ。許せない。私を騙すためにあの子をネタに使うのはかなり譲って許せたとして、記憶がないなんてあまらに非現実的すぎる。そりゃ、ドラマや小説ではよく取り上げられるネタではあるけれど、現実にそんな都合のいい事がそうそう起きないことは、最近の小学生でさえ知っている事だろう。あの子に記憶喪失の演技でもやらせているのかしら。いくらあの子とへたれ俳優がまとまらないからって、焦れてそんなネタを仕込んだりしても仕方ない事よっ。私まで巻き込まないで欲しいわ!
「琴南くん、そのままでいいから聞いてくれ。蓮と最上くんは記憶喪失、専門的には逆行性健忘という状態なのだと報告を受けている。現地に行った松島からの報告だと、自分の名前も忘れてしまっているそうだ。蓮の方は比較的落ち着いていて話もできるそうなのだが、最上くんは覚醒当初からパニックを起こしてしまって、今は唯一蓮にしか心を開かないらしい。主治医は専門外との事で、早めにこちらへ連れ帰って専門的な診察と判断、治療をするべきだとの事で、明日迎えを寄越すんだ。その車に君に同乗してもらいたい。」
社長の話を私はまだ信じる事が出来ない。でも、もしもこれがドッキリで、あの子が記憶喪失役で仕掛人一味なら、その陳腐な演技を見抜いて完膚なきまでに叩きのめしてあげるわ。見てなさい、私を謀ろうなんて10年はやいわよっ!
怒りの矛先は社長からあの子に移り、変に闘志が沸いてきた。
「わかりました。迎えに行けばいいんですね。」
「あぁ、頼むよ。ありがとう。」
詳しい段取りは秘書の男性が説明書を渡してくれた。仕事を浮けはしたもののまだ怒りが収まらない私は、無礼とは思いながらもずんずん出口に向かう。社長はそんな私を咎めることもなくにこやかに見送ってくれていたようだ。
ドッキリでしょ。私を騙しても何のネタにもならないわ。それともあのへたれ俳優に気合いを入れるためのエッセンス?
まずあの子に会ったら一発殴らないと気が済まないわ。いや、殴るのはあの顔だけへたれ俳優ね。現地に向かう居心地の悪い社内でそんな事ばかり考えていた。