蓮の病室は京子の病室の一つ奥。一番奥にある部屋だった。大きめの窓があり、近所の街の風景が見えるようになっている。

蓮はLMEから来たという三人を部屋に招き入れて、ベッドの横に置かれている応接セットに座るように促した。蓮自身はベッドに腰かけて、改めて三人を見る。しかし、知っている顔がない事に落胆してしまいそうになるので、少し視線を逸らして窓の外を見る。もう夕方を過ぎて夜の風景が広がる窓にはいくつか星も見える。ここは何処なんだろうと考えて始めた矢先、声がかかった。

「…蓮、もしかして俺達の事が解らないのか?」

三人の中では一番年長の椹が最初に話し出した。蓮は椹に視線を向け、また申し訳なさそうに目を反らす。「…すいません。解らないんです。」と思ったよりも掠れた声に蓮本人もその場にいた三人も驚きを露にした。
「な、名前は覚えていたのか?」社の問いかけには蓮は横に頭を振って答えた。「ただ、ここの先生や看護士さんが俺の名前は『敦賀蓮』で、彼女の名前は『京子』だと教えてくれて、それから俺は彼女を『京子さん』、彼女は俺を『敦賀さん』と呼んでいます。」

「混乱…してるよな?」松島の控え目な声に蓮は笑みを浮かべて答える。「京子さんが、彼女が俺の分まで取り乱してくれたおかげで、俺は常軌を保っていられるんです。彼女が頼るのは俺だけだから、俺が彼女を守らなければいけないって思うと取り乱したりパニックを起こしたりする暇はありませんから。」
その、春の日差しのような穏やかな笑顔に三人はほっと安堵のため息をつき、それだからこそ今の蓮はかなり精神的に限界が近い事を容易に想像出来てしまう。これは一刻も早く何とかしなくてはいけない。三人はそれぞれそう感じた。
「社長が…。」松島はローリーからの指示を蓮に伝える。「出来る限り早く東京に戻れとおっしゃっている。東京に戻って社長が懇意にしている専門の医者に診せてこれからの方針を考えたいそうだ。ここの主治医はお前建さえ大丈夫ならすぐにでも動けるという事だったが、お前はどうだ?」
「俺は大丈夫なんですが、京子さんが…。彼女が困惑してしまわないか心配ですね。俺達がここに運ばれたのは自動車事故だったので、車での移動は避けた方がいいでしょうし…。」
「それは社長も気にしていて、…リムジンを用意してくださるそうだ。」ちょっと言いにくそうな松島に違和感は感じたものの、社長の計らいには感謝だなと思う蓮だった。