サイドローリー

現地に向かった松島から連絡を受けた。蓮、最上くんの二人とも大怪我とか重篤な病気ではないとの事にほっと胸を撫で下ろそうとした刹那、受話器越しににわかには信じがたい報告が成された。

「今、なんと言った?」
自分でも驚くほど低い声しか出せなかった。

逆行性健忘、つまりは記憶喪失だというのだ。ご丁寧に二人揃ってなのだと松島は付け足した。

診察した医師はそちら方面は専門ではない。が、事故の衝撃で記憶を失ったという事だと思うという説明だったらしい。ただ、常日頃から枷になっている記憶を心の奥底に封印してしまう症例もあるので、どちらなのか解らないという事だった。二人は今のところ自分の名前さえ解らないとの事に事の重大さを痛感する。

松島には可能ならば少しでも早く東京へ、俺のもとへ二人を連れ帰るように指示を出した。が、松島たちが使っているのは小さなセダン車で、二時間ほどの移動は追突事故直後の二人、特に最上くんには負担になるのではないかと思い、迎えを出す事にした。俺のリムジンならそれほど怖くはないだろう。

「蓮、お前いったいこれからどうするつもりなんだ、おいっ?」 独り言はタバコの煙と共に霧散していった。