サイド社
看護士さんが病室の扉をノックする。その扉には『面会謝絶』の張り紙。これは病院側の配慮。勿論ネームプレートに『京子』や『敦賀』の文字はない。
「はい、どうぞ。」とよく響くテノールの声。あぁ、聞きなれた蓮の声だ。しかもすごく穏やかだ。よかった…。
立場的に俺が看護士さんのすぐ後に続いて病室に入った。いや、本来なら主任が先に入るのだろうが、蓮もキョーコちゃんも俺が一番近しいから、警戒させないためにと俺が一番最初に入ったのだ。
先頭の看護士さんに穏やかな笑顔を向けた蓮。しかし、後に続いて入った俺や両主任にはあからさまに敵意と嫌悪を孕んだ視線を寄越す。
ベッドに座るキョーコちゃんを俺達から隠すように体の向きを替え、キョーコちゃんは蓮の背中に身を寄せて小さくなって震えている。
「どなたですか?」
言葉は軟らかいが普段よりぐっと低く絞られた声に俺も両主任も息を飲む。蓮の眼が敵を威嚇するそれだったからだ。
看護士さんがフォローに入る。「敦賀さん、LMEの主任さんと貴方のマネージャーさんですよ。見覚えはありませんか?」
蓮は少し驚いたような表情を看護士さんに向けた。看護士さんがそれに笑顔で答える。
「…、失礼しました。俺の名前は敦賀…、敦賀蓮というそうですね。後ろにいるのは京子さんですね?」
さっきとはうって変わって所在なく目線を床に落とした蓮にかける言葉がうまく見つからない。それは両主任も同じようだ。
「すいません。何も覚えてないみたいなんです。俺も、京子さんも。俺はまぁなんとか受け入れている…つもりなんですが、京子さんはまだ現状の把握が出来ていません。彼女が覚醒して最初に会った俺の事を頼ってくれているんですが、それ以外の人には全然です。俺が居なくなると不安がるのでこうしていつも近くにいるんです。」と少し苦笑混じりに話す。その背中でまだ不安げに蓮の背中に隠れているキョーコちゃんはキュッと蓮の服を握りしめる。それに気付いた蓮がキョーコちゃんに優しい視線を送り、ポンポンと優しく頭をなでながら「大丈夫。この人たちは怖くないよ。」と安心させるように顔を覗き込む。
キョーコちゃんは小さく息を吐いて蓮を見上げて無邪気に笑いかける。その笑顔に蓮は一瞬無表情に固まるが、クスッと笑ってまた頭を撫でてやる。
この砂糖の塊を口に突っ込まれたような甘さはなんなんだっ!
看護士さんが病室の扉をノックする。その扉には『面会謝絶』の張り紙。これは病院側の配慮。勿論ネームプレートに『京子』や『敦賀』の文字はない。
「はい、どうぞ。」とよく響くテノールの声。あぁ、聞きなれた蓮の声だ。しかもすごく穏やかだ。よかった…。
立場的に俺が看護士さんのすぐ後に続いて病室に入った。いや、本来なら主任が先に入るのだろうが、蓮もキョーコちゃんも俺が一番近しいから、警戒させないためにと俺が一番最初に入ったのだ。
先頭の看護士さんに穏やかな笑顔を向けた蓮。しかし、後に続いて入った俺や両主任にはあからさまに敵意と嫌悪を孕んだ視線を寄越す。
ベッドに座るキョーコちゃんを俺達から隠すように体の向きを替え、キョーコちゃんは蓮の背中に身を寄せて小さくなって震えている。
「どなたですか?」
言葉は軟らかいが普段よりぐっと低く絞られた声に俺も両主任も息を飲む。蓮の眼が敵を威嚇するそれだったからだ。
看護士さんがフォローに入る。「敦賀さん、LMEの主任さんと貴方のマネージャーさんですよ。見覚えはありませんか?」
蓮は少し驚いたような表情を看護士さんに向けた。看護士さんがそれに笑顔で答える。
「…、失礼しました。俺の名前は敦賀…、敦賀蓮というそうですね。後ろにいるのは京子さんですね?」
さっきとはうって変わって所在なく目線を床に落とした蓮にかける言葉がうまく見つからない。それは両主任も同じようだ。
「すいません。何も覚えてないみたいなんです。俺も、京子さんも。俺はまぁなんとか受け入れている…つもりなんですが、京子さんはまだ現状の把握が出来ていません。彼女が覚醒して最初に会った俺の事を頼ってくれているんですが、それ以外の人には全然です。俺が居なくなると不安がるのでこうしていつも近くにいるんです。」と少し苦笑混じりに話す。その背中でまだ不安げに蓮の背中に隠れているキョーコちゃんはキュッと蓮の服を握りしめる。それに気付いた蓮がキョーコちゃんに優しい視線を送り、ポンポンと優しく頭をなでながら「大丈夫。この人たちは怖くないよ。」と安心させるように顔を覗き込む。
キョーコちゃんは小さく息を吐いて蓮を見上げて無邪気に笑いかける。その笑顔に蓮は一瞬無表情に固まるが、クスッと笑ってまた頭を撫でてやる。
この砂糖の塊を口に突っ込まれたような甘さはなんなんだっ!