サイド社
『逆行性健忘』
二人の状態はそう名付けられているとのことだった。
俺だけじゃなく両主任も言葉が出ない。平たく言えば記憶喪失というやつらしい。ドラマや映画、小説などて、そういう話はたまに見かけるが、現実問題として身近な人間に降りかかるものだとは思ってもみなかった。二人掛かりでどっきりでも仕掛けているのかと思った。いや、そう思いたい。それは松島・椹両主任も同じ思いだったようで、面談室から二人の病室に向かう廊下はやたらと遠く長く、薄暗くさえ感じた。そんな俺達の雰囲気を察してか、案内してくれた看護士さんは極力明るい笑顔で、明るい声で俺達に話しかけてくれた。
「京子さんが不安がられるので敦賀さんが付き添っている状態です。お二人すごく仲がいいんですね。見ていてほのぼのしちゃうくらいに。」
ほんのり頬を赤く染めながら二人の様子を説明してくれる看護士さんの様子に俺は一欠片の望みを託す。蓮はキョーコちゃんをひたすら思い大事にしてきた。それが今も変わらないならきっと記憶喪失も演技なんだ。そうあってほしい。いや、そうに違いないっ!
俺はキョーコちゃんの病室に入るのがすごくこわかった。
『逆行性健忘』
二人の状態はそう名付けられているとのことだった。
俺だけじゃなく両主任も言葉が出ない。平たく言えば記憶喪失というやつらしい。ドラマや映画、小説などて、そういう話はたまに見かけるが、現実問題として身近な人間に降りかかるものだとは思ってもみなかった。二人掛かりでどっきりでも仕掛けているのかと思った。いや、そう思いたい。それは松島・椹両主任も同じ思いだったようで、面談室から二人の病室に向かう廊下はやたらと遠く長く、薄暗くさえ感じた。そんな俺達の雰囲気を察してか、案内してくれた看護士さんは極力明るい笑顔で、明るい声で俺達に話しかけてくれた。
「京子さんが不安がられるので敦賀さんが付き添っている状態です。お二人すごく仲がいいんですね。見ていてほのぼのしちゃうくらいに。」
ほんのり頬を赤く染めながら二人の様子を説明してくれる看護士さんの様子に俺は一欠片の望みを託す。蓮はキョーコちゃんをひたすら思い大事にしてきた。それが今も変わらないならきっと記憶喪失も演技なんだ。そうあってほしい。いや、そうに違いないっ!
俺はキョーコちゃんの病室に入るのがすごくこわかった。