サイド社

蓮と連絡が付かなくなって半日。海沿いの町の小さな病院から連絡が入ったと松島主任から伝達された。そして俺はその病院に向かう車の中にいる。松島主任の運転で、椹主任と俺の三人で現地に向かっている。
蓮はキョーコちゃんと一緒にいるところで事故に巻き込まれたらしく、現場近くの小さな救急病院に搬送されたとのことだった。蓮もキョーコちゃんも特に目立つ外傷等もなく、今は意識も戻っていると聞いて俺は本当に安心した。わが社の看板俳優と売り出し中の新人タレントを不慮の事故で傷物にされた日にゃ、もう怖くて出勤なんで出来ないからな。それよりも、公私ともに俺を慕ってくれる弟の蓮と、その弟がやっとの事で手に入れた最愛の恋人。俺にとっては可愛くて仕方ない妹のキョーコちゃん、この二人と連絡出来なくなったんだ、俺の寿命もかなり縮んだ(ような気がする)。

でも、俺の寿命を縮める事実がその病院に待っていた。

松島主任と椹主任がテーブルを挟んで医者と向き合って説明を受けている。俺は少し離れて立って、その様子をうかがっている形だ。本来なら家族以外には説明を避けるべきなのだそうだが、蓮もキョーコちゃんもLME社長が保証人的な立場という事で、特例的に両主任が説明を受けている。
先だっての電話連絡の通り、蓮もキョーコちゃんも特別に怪我などはないとの事。脳波やCT、MRIも特に問題視される所見はない。ただ、脳内に出血などがあった場合、数日後に所見がでる場合もあるから、東京に帰ったらしかるべきところで検査を受ける旨の指導もうけた。話はそれだけで終わるのかと思っていた。早く二人に会いたかった。

一通りの説明を終えて医師は小さくため息をついた。
「それでは、二人に面会してもよろしいですか?」と聞く椹主任に、医者はちょっと言いにくそうに目線をそらして小さく呟く。「それが…」

「お二人とも身体的損傷、画像的所見はありません。が、しかし…」

医者は言い淀み、一つ深呼吸をしてから続ける。

「記憶の混乱が見られます。」