サイド蓮

彼女の様子をチェックし終えた看護士さんが病室を出ていった。
「京子さん、眼が覚めた時に彼氏がいてくれた方が安心されると思いますよ。敦賀さんが大丈夫なら傍にいてあげて下さいね。」と、柔らかい笑顔で去っていった。
二人っきりになって、俺は彼女の顔をまたまじまじと見つめていた。
彼女が少し笑った気がした。あ、まただ。
何か楽しい夢でもみているのだろうか。そんな無防備な笑顔を大サービスしないでほしい。俺の心臓がいくつあっても足りやしない。と思ったら彼女の眉間に縦皺が出来た。苦しいのか?
俺は動けないまま彼女の顔を覗き込んでいた。が、閉ざされた瞼から涙が滲む。「えっ!」
驚いて、次の瞬間、彼女の頬に手を添えて零れる涙を親指で脱ぐってやる。とっさのことで何も考えずに触れてしまった彼女の頬は柔らかくて、吸い付くようなキメの細かさに俺は少し慌ててしまった。この手を退けてあげなければと頭の中では思うのに、この温もりを手放したくないと体が全力で拒否している。
そして、彼女の瞼から頬を伝い俺の指に落ちる涙を、やはり綺麗だと思ってしまう俺は彼女の瞼がゆっくりと持ち上がるのをそのまま待っていた。

彼女の瞼が持ち上がり、先程から会いたいと心待にしていた彼女の瞳と出会う。そして、その瞳は俺を映して、彼女が言った。
「あなた、妖精さん?」