『最上さん、ちょっと鞄開けてくれるかな?』

唐突に大先輩からかけられた声にキョーコは一瞬固まったが、顔をあげるとなんとなくいつもより上機嫌な蓮の表情に出会い、持っていた愛用のトートバッグの持ち手を広げて中が全部見える程度に開ききった。

『ありがとう。じゃ、お礼にこれを入れておくよ。』
そぉいって蓮は手に持っていた小さな包みをキョーコのバッグの中に入れてニッコリ笑った。その表情にキョーコの心臓が速鐘を打つ。

『つ、敦賀さん、どうしたんですか?』と困惑するキョーコに『別にどうもしないよ(笑)』とあくまで優しい蓮の声。
『何かの意地悪ですか?それともどっきり?』
『酷いな、そんなに俺は悪者かい?』
一転して似非紳士スマイル攻撃にキョーコは思わず後ずさる。
『前に欲しいって話をしてただろう。たまたま見かけたんで買ってみたんだ。使ってみて?』
『あの、今日は何かの記念日とかではないですよね。私の誕生日はまだ先ですし…。』
『うん、なんにもないよ、普通の日。』
『普通の日、万歳ですね?』
そのキョーコの反則的な笑顔に今度は蓮が無表情で固まってしまう。(その笑顔は反則だろう…。がんばれ俺の理性!)
そんな蓮の心の叫びはキョーコに届くはずもなく、キョーコはドキドキしながらバッグの中の包みを開けようとする。が、蓮に阻まれる。『家に帰ってからゆっくり眺めてくれるかな?』

その、柔らかいが有無を言わせぬ言葉に、キョーコは包みを開ける事を諦め、蓮に続いてスタジオに向かった。