その男はある日、突然、彼女の前に現れた。

本当にある日、突然。

 

キューバ出身というその男は

浅黒く彫りの深い造りの顔と漆黒の瞳

栗色のナチュラルウェーブの髪を後ろに無造作に束ね

口元はラテン男のご多聞にもれずいつも薄ら笑いを浮かべている


スマートなエスコートに気の利いた会話

一緒に踊るキューバのダンス

そして1本の赤いバラ

 

それで彼女はこの男に夢中になった。

 

周囲の軽薄な噂をよそに彼女はその男と結婚をし

二人は裕福な彼女の父親が建ててくれた大きな一軒家に暮らし始めた。

 

やがて彼女は可愛い男の赤ちゃんを身籠った。

 

彼女は幸せだった。

とても幸せだった。

望んだ幸せの全てを手に入れたと思った。

 

そして男も幸せだった。

 

フランス人の彼女と結婚することで手に入れた

フランス人の配偶者という名目の10年ものの滞在許可証。

 

それはフランスへ移民してくる外国人がノドから手の出るほど欲しがるビザ/査証だ。

この滞在許可証さえあれば10年の間、社会主義国家のフランスで何の制限もなく

ほぼフランス人のように暮らせる。

 

男は3ヶ月働いては仕事を辞めることを繰り返すようになった。

3ヶ月働けば最低賃金で1ヶ月働いたとほぼ同額の失業手当が毎月もらえるのだから。

それに真面目に働かなくても彼女の実家からの援助もあるだろう。

 

男は全く幸せだった。

フランスで欲しいもの全てを手に入れたのだから。

 

 

ある日、彼女は、ーーまだ高校生の

妹の白い腕に何本も刻まれた赤黒いリストカットの傷跡を発見した。

 

彼女は妹が心配になり相談にのろうとしても、

妹は口を固く閉ざしたまま何も語らない。

ただなぜか、、、恨むような目つきで彼女を見つめるだけだった。

 

そしてなぜか妹は突然、母親によって隣町の寄宿舎のあるカトリック系の学校に転校させられてしまった。

 

彼女は母親に突然の妹の転校理由を尋ねたが、母親は何も言わなかった。

父親も何も言わなかった。

 

その年のクリスマスに妹の姿はなかった。

家族全員が揃うはずのクリスマスなのに、、、

 

 

彼女は夫に言った。

 

「妹に会えなくてとても悲しいわ」

 

「僕も全く残念だよ」

 

下衆な男。

 

 

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久しぶりのブログだというのに、、、

決して気分が良くなるような内容ではありませんが、、、(笑)

私の知っている下衆男

とある詩人の方が書いた「下衆な女」に触発されてしまいました (〃∇〃)