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作品紹介『red』

数年前に書いた作品。


よく見てみると今と言い回しがあまり変わっていなくてどきりとします。





ありきたりで残虐なお姫様の話。


どっかで聞いたようなありふれたお話ですが、


当時はこんな物語もすごく大事に書いていたのです。





前後編の二話に別れています。





<前編>


<後編>






書けないものは書けない。

見てくださっている方がいるのかどうかはわかりませんが、
とりあえず、お詫びの言葉から。ごめんなさい。

現在連載中のコウキとサクラですが、今私絶大な「スランプ」に陥ってまったく筆が進まない状況です。
それどころかプロットばっかりがうごめくように変わっていき、
今書いた一話二話と少々矛盾が生じる結果となってしまいました。
そことつじつまを合わせようとしてまたプロットを変え、
一度間違えてしまったナンプレやお絵かきロジック(ピクロス)のように
全然つじつまがあわずにどんどんめちゃくちゃになって
どんどん書けなくなっていく悪循環にとらわれていたのです。

「ヒナ」を書き始めた当初は無職だった私が、
今は仕事に就いていて、しかもそれが情熱を傾けられるものなので
そちらにばかり気力を裂いて、ヒナ更新時のように沢山更新できない事も悲しく
なんかちょっぴり逃げるようにしてamebaのサイトを開いてもいませんでした。

けれども、そこで天啓です。
魔女の宅急便でウルスラが「描くのをやめる」といった事をふと思い出したのです。
そうだ、どう足掻いても書けないもんは書けないよ。とちょっとやけくそ気味に諦めて。
徐々にいろいろなものを取り戻しながらちょこちょこと書いて、
書き溜めたものを吐き出していく方式にしようかなーと思い立っていて。

今はまだ全然書き溜まっていないので、むかーしむかしに書いた分を
今晩か明日あたりからお茶濁し程度にアップしていこうかなーと思っています。

もし見てくださっている方いらしたら、こんなサイトにお付き合いくださってありがとうございます。


それでは!

2.朝顔は目覚めて

 随分と爽やかな目覚めだった。肩の重さが消えてすっきりと疲れが取れている。
どうせなら、平日こんな風に目覚めてくれればいいのに、と思ったけれど。
もし仕事の日にこんな風に目覚めたら、逆に行きたくなくなるかもしれないな。
休日でよかったのかもしれない。そんな事を考えながら部屋のドアを開けた。
とんとんと階段を降りると、たまにぎしぎしと不吉な音もする。
この家は、一昨年前に亡くなったお父ちゃんから私が受け継いだものだ。
お父ちゃんは今際の際に私にこの家を譲り渡すように遺言を残した。
権利が私にあったのかはに判らないけれど、不思議と誰からも不満は出ず。


お父ちゃんとお母ちゃんは、私と双子の姉が七歳、妹がまだ2歳の時に離婚した。

原因は…お父ちゃんの浮気だ。

 私達はそれなりにマセていたから、「浮気」や「離婚」の意味を知っていて。
だから、お母ちゃんに「どっちについていく?」と聞かれたときにも
姉のヨシノちゃんは「お母ちゃん」と迷わずに即答した。
それから、「サクラちゃんもだよね」と、ヨシノちゃんに言われて。
そうなのか?とお父ちゃんに聞かれた時、私は咄嗟に目を反らしてしまった。
ヨシノちゃんはほらね、とばかりにお父ちゃんを睨みつけた。


 だから、そういう事に、なってしまった。

 本当の所は、少し、迷っていた。

 だから…。


 かちゃりと洗面所のドアを開けて、ぱちりと電気をつけた。トイレと洗面所はリフォームを入れたから、この家からは浮いたように綺麗だった。床も軋まない。 洗面台についた三面鏡の右側の鏡を手前に引くと、鏡の扉がぱかりと開く。中は棚になっている。私はその下から二段目にある青い歯ブラシの刺さったピンクのプラスチックコップを手に取ってぱたん、と鏡を閉じた時、一瞬、一番下の段にある、昔お父ちゃんの使っていたシェーバーが見えた。
 歯ブラシを手にとって、コップに水を注ぐ。しゃこしゃこ、と歯を磨く音が、静かな洗面所に響きはじめる。

 …お父ちゃんのシェーバーは。お父ちゃんが生きている間はあちこちにその場所を変えた。 おいサクラ、お父ちゃんのシェーバー知らないか。そう言って探し回るのがまるで朝の恒例行事みたいで。
 あれからお父ちゃんは何故か再婚しなかったから、お父ちゃんのシェーバーを探すのは、高校生の時からの私の役目だった。当時はまるで生きてるかのように本当にいろいろな場所に移動してたのに、お父ちゃんが死んでからは、決まった場所に鎮座しているそれが、寂しい。
ぺ、と口の中の泡を吐き出した。コップの中の水を含んで、ぶくぶくと口をゆすいで吐き出す。それから、水だけでぱしゃぱしゃと顔を洗った。

 洗面所を出て、私は居間へと向かう。磨りガラスの嵌った格子戸を横に引くと、からからと音を立てて開いた。居間は畳敷きの和間で、中央に掘座卓がある。堀座卓の上に、伏せたご飯茶碗と味噌汁椀に、焼鮭と、昨日の残りの煮物と、お漬物がラップをかけて置いてあって、さらにその上に蝿帳がかぶせてあった。蝿帳をとって、ラップ越しに焼き鮭に触れると、まだ暖かかった。冷めないうちに食べよう。そう思ってご飯茶碗と味噌汁を手に取った。
  妹のヒナちゃんは、毎朝こうしてご飯を用意してくれる。台所を見ると、一人分の食器が洗いかごの中に入っている。多分、先に食べてまた寝てしまったんだろう。 ヒナちゃんは最近ずっとそんな感じで。この間ライヴに一緒に行った時位から、ほんの少しだけ様子がおかしかった。凄く心配なのだけど、あまり心配して重荷に思われるのも嫌だった。時間が解決してくれるとは思わないけれど、せめて今はそっとしておこう。この間ヨシノちゃんに相談したときにそう言われたから、今はあまり触れないようにしていた。
 ご飯と味噌汁をよそって、冷蔵庫から納豆を取り出し席につく。味噌汁の味に、何故かとてもほっとした。毎朝起きてご飯があるというのが、とても懐かしくて、とても嬉しい。

 ヒナちゃんが、ずっといてくれたら、いいのに。

 …いけない。また私の悪い考えが出てしまった。なんだか今日は朝からお父ちゃんの事を思い出したり、いろんな事を考えてしまう。せっかく目覚めはすっきりとしていたのに、今はすこし気分が落ち込んでしまっていた。
  楽しいことを考えよう。そういえば、今日は夕方から、コウ君の路上に行く予定だった。この間買った朝顔の大きなプリントが入ったワンピースを着ていこう。
 ほんの少し、気分が向上して、私は納豆ご飯を口に運んだ。


 …後で、また歯を磨かなくちゃ…。




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