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「一般人が入って大丈夫やトか。」
「何が?」
「【高天原】の扉ヨ。」
「んー…。」
「ま、俺たちがどうこうするよりは、専門にやらしちょった方がいいって。」
「そうやろうか。」
「じゃーて。」
「大丈夫やガ。どうやったってあれは開かんし。」
「高天原の扉は、皇族にしか開けられん。その皇族も【清徳院】様しかおらんし、その清徳院様も生きちょっかどうか…。」
「生きちょっじゃろー。」
「死んじょったら、今頃ジャポネは無くなっちょるワ。」
「そーやねー…。」
「そろそろ時間やないト?」
「おろろ、時間じゃ!」
約束の日時、シーバは指定された場所へやってきた。
ジャポネ王国の南方地域【八代(ヤツシロ)】。彼が訪れた街は八代で一番大きな都市だ。
(『高科刀剣店』は……、あった。)
その店の前で、契約した傭兵が待っているということだった。
傭兵とはいうものの、シーバにとってはとても心もとない人材であった。
店の前にたたずむ1人の男がそうなのだろう。
案の定、とても戦闘向きとは思えぬ軽装。頭には浅黄色のバンダナを巻いている。
どうか違っていますようにという淡い期待と
多分当たっているだろうという強い不安を胸に、シーバはその男に声を掛けた。
「あの…、タイトさん…ですか?」
「…そーやケド?」
(…そうだけど?)
シーバの肩に、何やら重たい空気がもっそりとのしかかった。
「何や?新手のナンパ?」
タイトが真剣な表情で話しかけてきた。
思わぬ言葉にシーバは慌てふためいて否定する。
「ち、違いますっ。
僕は【ヒラバル・シーバ】です!」
だが、タイトはヘラヘラ笑って困ったように頭を掻いた。
「だからぁ、名前を教えられても俺にはもう心に決めた女と恋人がやナー…」
「だから違いますっ!!」
突然の大声に驚いたのか、タイトの表情が一転して真顔になり、シーバの顔をじっと見つめる。
タイトの不可解な行動にシーバはたじろいでしまった。
「な、何ですか…?」
「でも、お前…美人やナ。」
「はあ?」
またしても、タイトはエヘラエヘラとニヤけ出した。
「美人やったら…まあ…男でもいいかナ♪」
「僕はナンパしているのではありませんっっ!」
すると、きょとーんとして男は首を傾げた。
「は?違うト?なぁんだ、そンげなこつぁ、早ぅゆーてや~。」
(は?違うの?なぁんだ、そういうコトは、早く言ってよ~。)
「さ、さっきから言っているではありませんかっ!!」
必死の思いが通じたのか、一応、変な誤解は解けたようである。
そして、タイトは何かを理解したように両手をぱんと叩く。
「ああ、分かった!俺の【雇い主】カ!!」
「そうです。ああ、もう。人の話はちゃんと聞いてください。」
シーバはほっと胸を撫で下ろし、少し下がった眼鏡を元の位置にかけなおす。
タイトもようやく状況が把握できたらしく、にっこにこしながらこちらを見ている。
シーバの表情にもようやく笑みが出てき
「んー…、で?」
「はい?」
「いや、ほら。『はい?』じゃなくて、お前の名前。何て言うト?」
「………。」
…出てきていたのだが、すぐにそれも引っ込んだ。
何やら重たい空気がずしんとのしかかり、
シーバは今にも潰れそうな思いでいっぱいになった…。