マイルス・ファンは世界中に存在すれど、このアルバムを名盤に上げる変わり種は、そうはいないと思います(自分で言うな!/ごもっとも!)
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でも色々掘り下げてみると、「 "On the Corner"は、ロック界の制覇を目指すマイルスが築いた橋頭保なのだ!」という気が頻りにして来るんですね(ディスコ・グラフィ的に見ても、本作が「Bitches Brew/1970」から、「Jack Johnson/1971」、「Live-Evil/1971」へと連なる系譜から逸脱した、一種の分水嶺を形成していることが見て取れます)。
では、さっそく音源へ!…、というのがいつものパターンなんですが(笑)、今回はちょっと趣向を変えて、まずは当時のマイルスがハマっていた音源をご紹介したいと思います。
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***尚、最初と2番目はイメージに基づいたサウンドです。
いかがでしょう?
3番手のシュトック・ハウゼンはかなり手ごわい感じですが(笑)、少なくとも「Bitches Brew」への影響はたどれると思います。
私的には、"On the Corner"のテーマは、ズバリ「原点と未来の融合」だと思っているのですが、その理由についてはかなり長くなりますので、お手すきの時に、ぜひドウゾ!
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では!
マイルスという人は、政治的な発言はあまり残していないのですが、こと音楽やスポーツの分野での黒人の優位性については(オリンピックやポップスのヒット・チャート等を見れば歴然ですが)、公言して憚る処がありませんでした。そんな彼の当時のアイドルがチャーリー・パーカーであり、ヘビー級チャンピオンのジャック・ジョンソンだったんですね。
さらに言えば、マイルスがモダン・ジャズの頂点を目指した動機の内には、「西洋音楽の知識も技術も無い黒人達が、優れた感性によって創り上げたのがジャズなのだ」という史実を、改めて白人社会に知らしめたいという思いも、あったんじゃないでしょうか。
しかしながら、マイルスがジャズの帝王の座に就いたちょうどその頃、ロックン・ロールが台頭。長きに渡ってポピュラー界の主流を担ってきたジャズは、潮が引くようにして、シーンの片隅に追いやられてしまいます。
「俺が本気を出せば、世界一のロック・バンドなんてすぐに創れる」「青い目をしたケツの白いガキ共に、一泡吹かせてやる」等の発言から見ても、当時のマイルスがかなりの危機感を抱いていた事が窺えます。しかし彼には、ロック勢がもっていない二つの強力な武器がありました。一つは圧倒的なテクニックと理論、そしてもう一つが、黒人特有の優れたリズム感です(ちなみにマイケル・ジャクソンやプリンスが一世を風靡したのも、このリズム感によるものだと私は思っています)。
そのリズムとは、どんなものなのでしょうか。
ここから話は一気にアフリカン・アメリカンの故郷である西アフリカに飛びますので、皆さんシートベルトのご確認をお願いします!
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奴隷貿易による非道な拉致が起きる以前の西アフリカでは、文字をもたない幾つもの部族が平穏な日々を送っていました。何故、文字が無かったのかというと、特定の人間が富を独占して他の人々を支配する、というようなことが成立し得ない環境だったからです。農耕に向かない気候のため、食料を得る手立ては、もっぱら狩猟と採集。当然ながら、果実や獲物は保存できないので、調達出来た食料はすべて全員で分け、獲物が少なくなれば他の土地に移動するという生活でした。大きな岩や石なども無いので、家屋は葦などの植物を束ねて作り、移動の際にはそのまま放置して大地に返します。つまり小麦や米のような貯蔵できる作物が無く、財を蓄えられる家や蔵なども創る事が出来ず、得たものを全員で分かち合う社会だったので、個人の財産や取引を記録する必要がまった無かったんですね(富裕層や大企業が私利私欲に取りつかれた権力者と結託して、弱者から税を搾り取るようなドコゾの国よりも、はるかにまともに思えるのですが、如何なものでしょう)。
エ~、ここらで話をリズムに戻しますが(汗)、言語をもつ民族と、言語を持たない民族では、当然ながらリズムに込める要素が異なります。つまり西アフリカにおけるリズムは西洋のそれとは違い、言語に匹敵するコミュニケーション手段であるのと同時に、時には言葉以上の喚起力を生むエネルギーの源でもあったわけです。おそらくマイルスが本作で表現したかった、もしくは再現したかったのは、この喚起力、つまりはコール&レスポンスを生み出すエネルギーだったんじゃないでしょうか。さらにマーケティング能力に長けていたマイルスは、黒人のリズムによって世界中でコール&レスポンスの波が沸き立てば、「青い目をした、ケツの白いガキ共」など容易く席巻できると踏んだのでしょう。
MilesDavis "On the Corner"
1.On the Corner
2.New York Girl
3.Thinkin' One Thing and Doin' Another
4.Vote for Miles
5.Black Satin
6.One and One
7.Helen Butte
8.Mr. Freedom X
Miles Davis – electric trumpet
Michael Henderson – bass guitar
Don Alias – drums, percussion
Jack DeJohnette – drums
Billy Hart – drums
James Mtume – percussion
Carlos Garnett – soprano saxophone, tenor saxophone
Dave Liebman – soprano saxophone, tenor saxophone
Bennie Maupin – bass clarinet
Chick Corea – Fender Rhodes electric piano
Herbie Hancock – Fender Rhodes electric piano, synthesizer
Harold Ivory Williams – keys, organ
Cedric Lawson – organ
Dave Creamer – electric guitar
John McLaughlin – electric guitar
Khalil Balakrishna – electric sitar
Collin Walcott – electric sitar
Paul Buckmaster – electric cello
Badal Roy – tabla9
では最後に、本作にまつわるエピソードを一つ。
クレジット欄に名前が載っているハービー・ハンコックなんですが、彼は当初、レコーディング・メンバーには入っていなかったんですね。しかし偶然にもその日、スタジオ近くのスーパーに食料品の買い出しに来てたら、突然マイルスから電話が。「すぐに、スタジオに来い!、ガチャ」「…?」。ボスの命令とあらば致し方ないので、ハービーは買い物袋を抱えたままスタジオへ。すると…、「部屋の中は、見たこともないインド人やブラジル人でごった返していて、足の踏み場もなかった。マイルスは俺を見るとニヤッと笑い、フェンダー・ローズを顎で示した。そこで俺は音を立てないように中に入り、訳がわからないまま思いついたフレーズを弾き始めたってわけさ」
( ゚Д゚)」
詰まる処、帝王はどこまで行っても帝王なのだ、という事なのでありました!
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では、また!
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