診察といっても、やっぱり内診台に誘導されました。

心がだいぶ弱っており、これ以上、股を開いてエコーを入れられるのに嫌悪感がありました。

―もうお腹に赤ちゃんはいないのに、何を診る必要があるの?―

想像ですが、手術でずっとアソコを広げられていたからか、いつもよりエコー挿入時に痛みを感じました。

エコーで映し出された画面を見ても、もう赤ちゃんも赤ちゃんの袋もありません。
黒が多めの砂嵐のようにしか見えません。

―私の赤ちゃんどうしたの?今どこにいるの?―

そう思うと同時にハッと我に返ったというか、心に衝撃が走りました。

―私は私の赤ちゃんを殺してしまったんだ!―



先生『ここに血が見えますが、次の生理と共にでてきます。』

私には血がどれかなんてわかりません。
砂嵐にしか見えません。

エコーが抜かれました。

先生『詰めていた脱脂綿をとります。』

私は、これ以上何もしないでほしいと思いました。
もう赤ちゃんはいないのだから。

全てが虚しく思えました。

脱脂綿には、血があまりついていないようでした。

だから、何の根拠もありませんが、手術後続くといわれる“出血”も少ないんだろうと、安易に考えていました。

先生『手術大変でしたよ。でも、綺麗に取り除いたから大丈夫です。』

手術前に先生から、私は出産経験がなく、中が非常に狭いので場合によっては手術ができずに、中止する場合があると予告されていました。

―手術がうまくいかなければ良かったのに―

私は手術ができずに、産むしかない状況に追いこまれるのを期待していました。
そしたら、中絶を望んでる彼にもそれをちゃんとした産む理由として言えるからです。


内診台で看護師さんが私にナプキンをあて、パンツを履かせてくれました。
誰かにこんな恥ずかしいことをしてもらうのは初めてでした。
先生に散々見られてますが。

それから、2種類の薬をもらいました。
3日分だったと思います。
一つは、子宮収縮剤。
“妊婦厳禁”の文字もご丁寧に表示されていました。
もう妊婦じゃない現実を突きつけられました。
薬にまでこんな思いをさせられるだなんて…

もう一つの薬は、恐らく抗生剤だったと思います。

旦那さんにバレないように飲まなければなりません。

先生からは、

①出血がひどかったら教えること
②2週間後に来ること

を言われました。

逆にそれしか言われませんでした。

―えっ?!手術後に気を付けることって他にないの?―

初診から思ってたのですが、この病院は“説明がない”んです。

産婦人科に全く縁がないので他の病院と比べようがないのですが。
妊娠を伝えられた時も、妊婦が気を付けなきゃいけないことの説明はありませんでした。
カフェインや服薬がダメなことは、常識として言うまでもないことなのでしょうか。

中絶手術に関しても、手術前と後の注意点、中絶にかかる費用(週数ごとの中絶費用含む)、次の生理がいつ来るか、セックスはいつからできるか、入浴はできるのか。

いちいち説明がありません。

この病院は、地元では“評判の良い産婦人科”として知られています。
友達もこの産婦人科を選んで出産したほどです。

私にはこの病院の良さが1㍉も理解できません。

薬を渡され、詳しい説明もないまま帰されそうだったので私は、かろうじて一つだけ質問しました。

yume『入浴はできますか?』

先生『できますよー』

のみ!!

―今日湯船浸かっちゃっていいんだ~―

私は中絶に関して事前にネットで調べていたので、当日はシャワーじゃなきゃダメとか出血はいつまで続くのか等、なんとなくの情報は頭にありました。
しかし、どれも書いてあることにバラつきがあり、どれを信じればいいのか疑問だったのです。
だから教えてほしかったんです。

先生の言う、出血がひどい場合の基準もわからないし、私の心は投げやりになっていました。

―もうどうでもいいや―

着替えを済ませ、会計のために待合室へ行きました。
私は妊婦さん方を見ないようにしました。

事前予告もなかった会計は、112,000円。
あらゆるネットによると中絶費用は、10万~15万円となっていたので、多めに持ってきていました。
ネットで調べてなかったら、お支払できませんでした。

帰る頃には、だいぶ痛みもひいていました。
結局、緊急連絡先さえ聞かれることなく、中絶承諾書も私一人の署名で終わりました。

緊急連絡先を誰にするか、彼に聞いたことで無駄に傷ついた感がありました。

私は病院をあとにし、家までの道を一人トボトボ歩き始めました。