• 作:テネシー・ウィリアムズ
  • 訳:広田敦郎
  • 演出:松本祐子
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  • 日程:2023年5月9日(火)~5月23日(火)
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  • 会場:文学座アトリエ
  • 上演時間:三時間5分(途中二回の休憩あり)

 

1957年にブロードウェイで初演された『地獄のオルフェウス』

1961年に文学座が日本初演したんだそうです

文学座は根っからのテネシー・ウィリアムズファンなんですね

1969年6月文学座の招聘により来日までしてもらってます

 

今作の元ネタになっているのはギリシャ神話のオルフェウスの伝説

この伝説悲劇なのがいいのかだいぶ愛されていましてカンタータ、交響詩、オペラにオペレッタ等々で作品化されています

 

オルフェウスが冥府に妻を迎えに行くのだが振り返ってはいけないという約束を守り切れなかったために妻はまた冥府におちオルフェウスはその後関心を向けなかった女たちに八つ裂きあうというのが元の伝説

オペラは救いがあったりするようですがテネシー・ウィリアムズの戯曲は伝説と同じく悲劇的なラストを迎えます

 

テネシー・ウィリアムズはこの作品を何度かの改稿を重ね17年かけて書き上げています

はじめは「天使たいのたたかい」という作品で彼にとって最初のプロの劇団が上演する作品であったが途中で打ち切りとなってしまった

そのときからずっと作業台の上にあり『とうとう完成したと心から信じている』ので上演するのだとあります

『自分の言いたかったことをようやく作品の中でどうにか言えた』『駆け出しの頃と現在の私の劇作家としての存在を結ぶ感情の架け橋のようなものが、この作品にあると感じている』とも

 

わたしがこんなに調べているのはですね観たものが何なのかわからなかったからです

作家の思い入れはこのように一入だというのに

舞台のしつらえは素敵でした

下手(しもて)側客席から見て左側に踊り場のある階段があり上手(かみて)側に外への出入り口があります

中央奥には棚とカウンターがあり舞台前にテーブルと椅子がいくつか

具体的でしっかりとしたセットです

 

ところが芝居中のセリフは具体性にかけ詩的で一方的だし抒情的な激しい表現が多く会話劇には見えません

行われている中身とそれを支える箱の次元が合わない感じです

だんだんと違和感が増え話も見えず疑問ばかりになりました

 

脚本には舞台装置は非リアリスティックにと書かれているんですねしっかりと

ということは多分階段と季節が見える窓があれば十分だったんです

演出で如何様にも出来得るとはいえセリフの量が多いですからわかってきちゃいます

出演者も舞台装置使い切れていませんでした

そういう埋め切れていない無理がどうしても見えます

 

今回窓ありませんでしたけど勿体なかったです

時間経過を表すことで積み重なる思いが伝わったのに何故外の景色を削ったのか不思議です

使えるものは全部使ったらいいのに

 

面白い部分もありました

女性たちのリアクションです

あの演出はよかったですね

音楽もここで入ったらいいなと思うところに狙いすぎないものがあって納得でした

 

一番引っ掛かったのは階段踊り場下に位置する試着室です

レイディがヴァルのためにしつらえたあの部屋

あの位置であの作りだと上手の客席では中が見えないことがあったと思います

中でレイディとヴァルがしたやり取りはセリフはないけど結構重要だったはずなのにお客さん全員とそれを共有しない意図がわかりませんでした

 

細かな疑問って後を引き全体の印象に響くんですよね

こうやって一人で調べて埋めていくのも悪くはないです

ただ望むらくはポジティブな感想から興味を深くしていきたいのです

その場で直に触れるようにして行われる演劇はもう少し頑張ってほしいと思っています

見てわかるように見て感じられるように見て知ることができるように

 

 

お陰様ですっかりテネシーウィリアムズの資料あさりに興味をもつことになったので

新しい世界を繋げてくれたことには感謝です

ヴァルをエルビス・プレスリーと見立てるという見解にたどり着いたときの満足は癖に名rますね

 

探していると少しずつ埋まっていく感覚がたのしいです

 

という結局お芝居の感想じゃない結びになりました

 

 

 

最後に原題は『Orpheus Descending』

descendは自動詞だと

  1. 下りる、降りる、降下する、傾斜する
  2. 数が少なくなる、低下する
  3. 〔祖先から子孫に〕伝わる
  4. 飛び付く、襲撃する、押しかける、殺到する、急行する
  5. 落ちぶれる、身を落とす、零落する

例>descend from heaven: 天から降りる、天国から舞い降りる

 

desceningを形容詞とすると

 下っていく、下向きの

 

地獄という意味はなく感じとしてはそこから下に降りて行っている様子が表されるようです