『言葉はなぜ生まれたのか』岡ノ谷 一夫 石森 愛彦
ことばの4条件
おじさん「きみのぼうしは実にエクセレントだね!」
少年 「エクセレントって何ですか?」
1 発声学習ができる(すぐに真似ができる)
少年は、はじめて聞いた「エクセレント」という音声を聞いて、すぐに「エクセレント」と発音を真似して聞き返しています。
2 音(単語)と意味が対応している
ふたりとも「ぼうし」という単語を「頭にかぶるもの」という意味に対応させて使っています。
3 文法がある
おじさんも少年も、いくつかの単語を組み合わせて文章をつくっています。ことばの組み合わせには一定の規則、つまり文法があります。 きみ/の/ぼうし/は/じつに/エクセレント/だね
4 社会関係のなかで使い分けられる
おじさんは「だね」というくだけた表現をしていますが、少年は「ですか?」という丁寧な言い方をしています。人間は集団の社会関係のなかで、ことばを使い分けています。
2章 息を止められなければ、ことばはしゃべれない
「息を止める能力」があれば、発声学習ができる
じつは、発生練習ができる動物には「息を止めることができる」という共通点があります。「そんなの、イヌやネコにだってできるだろう?」と思うかもしれませんが、イヌもネコも息を止めることはできません。サルやウマやシカも同様です。
一方、発声学習できるオウムや九官鳥、イルカ、クジラ、ヒトなどは、自分の意志で自由に息を止めたり吸ったりできます。
なぜ発生練習できる動物だけが自由に呼吸を制御できるのでしょう?
その理由として、「息を止める機能をもつことで、生存に有利になった」からだと考えられます。
まず生存に有利な呼吸を止める能力が育ち、その後発生学習ができるようになったと考えられます。
✖ 発生学習できる動物→呼吸をコントロールできるようになった
〇 呼吸をコントロールできる動物 → 発生練習できるようになった と考えられるのです。
ジュウシマツの歌には文法があった
ヒトも歌の「切れ目」がわかる
「歌の切れ目」と「ことばの切れ目」
はじめて聞く外国語は、もにょもにょ連続した音の流れに聞こえます。しかし、その外国語の勉強を続けて耳が慣れてくると、ことばの流れのなかにある単語の「切れ目」がわかってくるようになります。
(仮説) 人間は「ことば」をもつより前に、「歌詞のない歌」をうたっていたのではないだろうか?
呼吸をコントロールする機能をもったため、人間は「発声学習」が可能になった。
そのため、「ことば」の習得が可能になった。
「ことばは歌から生まれた」
……この仮説を実証するため、私たち科学者は日夜チャレンジを続けているのです。
おわりに 「ことば」から「こころ」へ
でもほんとうに、ほんとうに知りたいのは「こころ」の問題なのです。こんなふうに考えつづける自分の意識とは、いったいどうやってできているのだろう。意識を意識する自分は何なのだろう。意識にとって「ことば」は不可欠なのだろうか。いつかこれらの問題をまとめてみたいと思っています。