(令和6年6月19日読了)

 

『心に美しい庭をつくりなさい。』枡野 俊明

 

27 自分が心惹かれる庭の風景を思い描くということは、風景という“かたち”をまねるということです。じつは、かたちから入ることが大事なのです。禅には「威儀即仏法」という言葉があります。ふるまい方、すなわち、かたちを整えることが、そのまま仏教の教えに則っている、というのがこの禅語の意味です。

 ですから、禅の修行では衣の着方からお辞儀の仕方、歩き方から手の置き方、箸の上げ下ろしといったこまかいことまで厳しく指導されます。それこそ一挙手一投足を数えられる。

◆◆◆かたちを整えることが、心を鍛える修行になる、と考えられているからです。

 

 庭の風景、すなわち、かたちをまねることは、自分の「心の庭」をつくっていくための手がかりとしては、とても有効な方法だと思います。

 

 尊敬できる点や魅力の中身はそれぞれだと思いますが、尊敬できる人の美点、「あの人のああいうところが素敵」という部分があったら、その人の美点を“まね”するのです。はじめのうちは付け焼刃かもしれません。しかし、宮崎禅師のおっしゃるように、誠心誠意まねていると、いつか、それは「ほんまもん」になる。

 

 「薫習(くんしゅう)」という禅語は、もともとの意味は、衣類に虫除けのお香を入れておくと、いつかその香りが衣類に移っていくということですが、そこから転じて、弟子がよき師の立ち居ふるまいをよく観察し、繰り返し、繰り返し、まねしていると、そのふるまいはもちろん、ふるまいとしてあらわれている師の心までも、身についていくということをいっています。

 尊敬できる人、魅力的な人の、仕事に対する姿勢、人への対応も、所作や言葉づかいも、その人の心があらわれたものなのです。

 つまり、その人は素敵な「心の庭」を持っている。

 その素敵なところをまねていると、いつか、自分の色合いに染まった素敵な「心の庭」ができあがっていくのです。

 

 

133 植えた木がその場に馴染むのに五年くらいはかかります。その場にふさわしい“いい景色”になるのは一〇年経過してからでしょうか。石だけの庭にしても、年数が経てば苔がつきますし、その苔も光の当たり具合でつき方がちがってきます。こちらも、やはり、五年、一〇年と経たないと、いい味が出てこないのです。つくり手にもその未来イメージがなければなりません。

 はっきりいえば、「禅の庭」に完成ということはないのです。永遠に移ろいでいく、成長していくのです。人生と似ていませんか?

 

159 禅はマイナス要因をプラスに転じなさい、と教えます。一見悪条件と思われる部分についても、それがあるからこそ、このデザインができるのだ、という捉え方をするのです。

 「こうであったら」「ああでなかったら」ということから離れる。それが先入観という色眼鏡を外すポイントでしょう。自分勝手な都合を持ち込まないことだといってもいいですね。

 

200 どんなに姿形が美しく、また、着飾っていても、言葉づかいがぞんざいでうと、美しさは確実に半減、いや、台なしになってしまう気がするのです。美しさにとって言葉は重要です。

 禅では「愛語(あいご)」といって、相手を思いやり、慈しむ気持ちがこもった言葉で語りかけなさい、と教えています。

 

 『正法眼蔵(しょうぼうげんぞう)』のなかの道元禅師の言葉より…

「愛語は愛心よりおこる。愛心は磁心を種子とせり。愛語よく廻天の力あることを、学すべきなり」

思いやり、慈しみに満ちた言葉は、天をひっくり返すほどの力がある、というわけです。ゆめゆめ軽率に扱ってはいけません。自分の言葉が相手がどう受け止めるかを考えて言葉を選ぶ。それが、言葉を大切にするということだと思いますし、そうできる人は美しい人です。

 もっとも尊い美しさはなんでしょう。心の美しさ、生き方の美しさだ、とわたしは思っています。

 

201 仏教には「三業(さんごう)」という言葉があります。「身業(しんごう)」「口業(くごう)」「意業(いごう)」の三つがそれです。

 身業は身体、すなわちすふまい、口業は言葉、意業は心です。この三業を整えなさい、というのが仏教の教えです。

 「三つも整えるのはたいへん」と思うかもしれませんが、心配ご無用。

 ふるまいを整えると、言葉も整ってくる。ふるまいも、言葉も整うと、自然に心も整ったものになる。この三つにはそうした関係があるのです。美しさも同じです。ふるまいを美しくすると、言葉も美しくなる。ふるまい、言葉が美しいとお、心も美しいものになるのです。

 一瞬、一瞬を美しい心で生きる。その積み重ねが、人生を美しく生きることになるのだということは、もう、いうまでもありませんえ。

 ふるまい、言葉づかいを美しくすることは、自分の努力でいますぐにでもできます。ぜひ、そうしてください。

 

 続けていくこと、継続が大事です。倦まず弛まず、その努力を続けるから、ほんものになる、身につくのです。

 「自分はその努力を続けているだろうか?」

 そう感じたら、「心の庭」と向き合いましょう。その風景が美しいものに移り変わっていたら、努力は着実に実を結んでいます。