「ニューエイジ、水瓶座の時代、第六の太陽の時代、ミロクの世など、様々な名前で呼ばれていますが、僕は、基本的にはみんな同じことをいっているのだと思います。つまり、平和で持続可能な時代。みなが独立し、幸せになる時代の到来です」
水瓶座の時代というのは聞いたことがある。そうだ。ハックが言っていたのだ。確か、二千年ごとに周期が変わり、過去二千年が魚座の時代で、これからの二千年が水瓶座の時代になるのだという。
「何人かの人たちはそういうことも今日初めて聞くことと思います」
まさにその通りだ。水瓶座の時代とニューエイジ以外は聞いたことがない。ニューエイジは確か水瓶座の時代と同義語だが、同時に瞑想や水晶などにはまっている人たちの活動全体を指す言葉として使われている。もっとも最近はほとんど聞かなくなったが。
「これは非常に重要なことなので、少し説明したいと思います。まず、水瓶座の時代について。地球には歳差運動というものがあります。これは、自転している物体の回転軸が、円を描くように振れる現象のことを指すのですが、約二万五千九百二十年の時間をかけて、春分点が黄道十二星座を一周するんです。ということは、約二一六○年間、ひとつの星座の期間に春分点があり、その期間は、その星座に影響される。つまり、時代がその星座の意味合いに合わせて変わっていくというものです。今までの二一六○年間は魚座の時代と呼ばれ、これはちょうどキリストの生誕の時期に始まったと言われています。魚座の時代の性質は分離であり、様々なものが分かれていました。国家が分かれ、宗教が分かれ、男性性と女性性が分かれていました。これからの二一六○年間は水瓶座の時代です。水瓶座の時代の性質は統合です。あらゆるものが融合していく。同時に、博愛、平等、自由、革命と独立などの性質があると言われています。既存の価値観から解放され、新しい価値観を構築していく時代です。また、物質的な時代から精神的な時代へ移行するともいいます」
ここまで言うと、小野寺は口を閉じた。 春分点とか黄道十二星座とか占星術の用語はよくわからないが、自由で平等の時代がやってくるのはありがたい。
「地球はちょうど今水瓶座の時代に移行していて、新しい時代が始まろうとしています。そのことを英語ではニューエイジといいます」
小野寺は続けた。「第六の太陽の時代というのはマヤの人たちの概念です。約五千二百年周期で時代が変わり、今まで、第一の太陽の時代、第二の太陽の時代、第三の太陽に時代、第四の太陽の時代を経て、つい最近までは第五の太陽の時代だったそうです。そしてその第五の太陽の時代が終わるのがかの有名な二○一二年の冬至だと言われていました。日本ではその翌日に関東大震災が起きたのです。つまり、マヤの考え方でいえば、すでに次の、第六の太陽の時代は始まっていることになります。第六の太陽の時代の性質も水瓶座の時代のものと非常によく似ています」
二○一二年の冬至。そういえば一時期そんな映画が公開され、この日のことが騒がれていたっけ。そうか。地震が起きた日というのはその翌日だったのか。そう思うと全身が身ぶるいしてくる。
「ミロクの世というのは日本でよく言われていることですね。出口王仁三郎で有名な大本教や岡本天明の『日月神示』などで語られているものです。いつということははっきりとは語られていませんが、近い将来に社会はミロクの世に移行すると言われ、ミロクの世とは半霊半物質の時代になると。これはよくいうアセンションという表現にも似ていますね。アセンション説では二○一二年の冬至前後に地球は次元上昇し、物質次元から半霊半物質的な次元へ移行すると」
ミロクの世やアセンションという言葉は聞いたことがなかった。
「僕は、これらのすべてを信じているわけではありません。半霊半物質の時代になったというのも実感としてはまだ感じられません。ただ、今年社会が劇的に変化したことは事実です。関東大震災が起き、日本の首都は壊滅状態になっています。同時期に国は財政破綻をきたしました。アメリカも財政破綻し、サンフランシスコでも巨大地震が発生しました。アメリカと日本というのは過去五十年間世界経済をリードしてきた経済大国です。資本主義経済の象徴でもありました。その二つの経済が崩壊したということは、資本主義が崩壊したことを意味し、何百年と続いてきたシステムの崩壊を物語っています」
ついに出た。システムの話だ。
「多くの人は経済の崩壊を否定的に捉えていますが、僕は肯定的に捉えています。資本主義経済システムというのは帝国主義から受け継がれているシステムで、一部の金持ちがどんどん裕福になり、残りの大多数の人たちが貧しい生活を強いられる不公平なシステムでした。資源を浪費し、自然と調和を保たない持続不可能なシステムでした。今までが地獄だったのです。もちろん、恩恵を受けている人たちにとっては、便利で快適なものであったかもしれません。しかし、第三世界で生活する大多数の人たちにとってはそうでありませんでした。家畜をはじめとする動物にとってはそうでありませんでした。植物にとってもそうでありませんでした。ガイア、地球にとっては決して心地よいシステムではなかったのです。ですから、そのシステムが崩壊したということは、新しい、より持続可能なシステムをつくりだす最大のチャンスなのです」
ここまで言うと、小野寺はまた口を閉じた。
「水瓶座の時代の性質に革命と独立というものがあると言いましたが、これから、本当の意味での革命が起きます。新しい社会を建設する大革命が起きるのです。人類はついにシステムから独立するのです。二○一三年は独立の年です。マヤでは十三という数字を大切にしているそうですが、二○一三年は始まりの年であり、明日一月一日を独立記念日としたいと思います」
会場からは拍手が沸き起こった。
「つまり、今日は独立記念日イブということになります。今までの社会では、資本家や経済的に成功したといえる人たちがリードしてきました。彼らが常にメディアで取り上げられ、時代の主人公を演じてきました。では、新時代の主役は誰だかわかりますか?」
みんなシーンとなった。
「百姓です」
再び拍手が会場から沸き起こる。
「自然と共に生き、自らの食べ物を自分でつくる自給自足の百姓です。百姓は百の仕事をこなすとも言われていますが、包括的な人間なのです。誰に依存することもない、真の独立人間です。同時に、自然界のすべてのものは相互依存していることを理解し、ワンネスの意識で動植物と共存して生きています。ガイアと共に生きているのです。偽りのシステムから独立し、ガイアに依存して生きているのです。ガイアを維持するために相応ということをわきまえています。身の丈レベルで物事を行い、必要以上のことは行いません。これからの時代をリードするのは他でもない、百姓です」
と小野寺が言うと、会場からは歓声が沸き起こった。
それにしても小野寺は成長したものだ。雰囲気は全く変わっていなかったが、三十年前と比べると、知識も豊富になっているようだし、知恵というか、賢者のような風格がついてきた。そしてあの話し方。聴衆を魅了したあの口調は魔法のようだった。決して話し方がうまかったわけではない。もっと話術に長けた講演家はたくさんいる。小野寺の場合はそういう技術的なものではない。彼の話には嘘がないのだ。彼は語っていることを実践し、それを心底信じている。そこに一切の分離が感じられない。それが聞いている者の心に伝わってくるのだ。