次の日、目が覚めて朝食をとる。頭の中に浮かぶのは自分の行いへの後悔と、遺族への謝罪。
あの時こうしていれば・・・・いくら考えても無駄なのは自分が一番分かっているがそうすることしかできない。
せめて遺族に対して謝罪だけでもしっかりしておけばよかった。自己満足であることはわかっているが、そうすれば今のこの後悔が少しでも軽くなったのかもしれない。
・・・何もする気が起きない。
幸いなことにここの刑務所は何もしなくていい。ただ、自分の過ちを何度も何度も繰り返し思い出し、後悔する。それしかすることがない。これはただ俺が気まじめだからだろうか。犯罪者の中には自分の犯した罪を罪と思わないものもいるらしい。彼らにとっては、何もせず生きていけるここは天国かもしれない。罪の意識にとらわれず、日々を楽しく暮らす。まあ、何もすることがないのは一緒かもしれないが、俺のように自分の犯した罪に苦しめられることがないというのは、すごく楽だろうなと思ってしまう。
ああ・・・また頭に事故当時の様子が浮かぶ。あの時どうして居眠りなんてしてしまったのだろうか、どうしてタクシーを使わなかったのだろうか、どうして飲みに行ってしまったのだろうか、どうして・・・
そうして、何日たったのだろうか。もう今が朝か夜かもわからない。今口に運んでいるものが昼食なのか夕食なのかもわからない。
日に日に、俺の食事の量は減っていき、出てきたものを残すようになっていた。頭は後悔でいっぱいで、もういっそ死んでしまおうかと思うのだが、死が怖い。その一心でもうあまり味のしなくなったものを口へと運ぶ。どうやらいろいろな器官が麻痺してしまっているようだ。足も腕も、少し痩せてきているような気がする。ここで生きるのに必要なのは、食事が入ってくる音を感知する耳と、食べるための口、それ以外ほとんど必要がない。ひたすら後悔し、つかれては寝る。このままではまずいと何度も違うことを考えようとした。かつての楽しかった記憶、嬉しかったこと、おいしかった食べ物・・・・家族との旅行、友人とのキャンプ、大学に合格したこと、プレゼンが成功したこと、アイスクリーム、ラーメン、シュークリーム・・・懐かしくて、懐かしくて、唯々涙があふれる。もう戻れない日常、もう二度と出会うことのない人たち、そして・・・それらすべてを奪ってしまったということ。
ここには何もない。かつて仲の良かった友人も面会にも来てくれはしない。俺の一生は二人の人生を奪い、多くの人を悲しませるためのものだったのかもしれない。友人にとって俺はいなくなってもわざわざ会いに来る必要もない人間だった。まあ、犯罪者だから仕方がないのかもしれない。二人にはその死を悲しんでくれる人がいた。それだけ必要とされていた。俺には誰もいない。生きていた価値のない俺が、いろんな人に求められ価値のあった人間を殺した。俺は何のために生まれてきた。何のために今まで生きてきた。そしてここで俺はいったい何のために生きているのだろうか。生きている意味はないが唯々死が怖いがために惰性で生きる。
「誰か!!誰か!!」
気がつくと俺はひたすら叫んでいた。声がかれても、のどが悲鳴を上げても叫び続けた。誰か俺に答えをくれ。俺はいったいどうすればいい。俺は二人のために何ができる。ここで何をすればいい。何のために生まれてきた。誰か答えをくれ。死が怖い。だが、それで俺の罪が流れるなら喜んで受け入れる。だから誰か俺に答えを、道を示してくれ。
「誰か!誰か・・・」
誰からも答えは返ってこない。返ってくるわけもない。この世の法律は罪を犯した者ははこうやって裁かれると決めた。だから俺はこうして裁かれている。これが世の出した答え。だが本当にこれで罪が償えるのだろうか。俺はこの籠の中からならば、あの二人に顔向けできるのだろうか。遺族に俺はここに入ってるだから許してくれ。そんなバカな話があるのだろうか。二人のために、遺族のためにもっとできることはないのだろうか。いや、きっとすべきだったんだ。ここに入ってしまってはもうどうしようもない。ただ生をむさぼることしかできない。どうして、もっと真剣に謝罪をしに行かなかったのだろうか、どうしてもっと何ができるかかんがえなかったのだろうか。もう今となっては何もかもが遅い。それを後悔することしかできない。誰か・・・誰か・・・
視界がだんだん暗くなっていく、頭が少しずつぼおっとしてくる。ああ、これは眠たくなってきているのか。じゃあ今は夜なのかな。まぶしいから電気ぐらい消さなきゃな・・・あれ・・・体が重たいな・・まあこのままでいいか。もう後悔するのに疲れたよ。後何十年も残ってるんだし、いつかきっと二人に本当の意味で償う方法が思いつくかもしれない。それまで、俺は生きて・・・ここで罪を償い続けるんだ。きっとそれが俺に与えられた罰だったんだ・・・
完。