MaxFritz in Mongolia! 私のモンゴル物語Vol.5
まさしく不意打ち。
この日2度目のそれはあまりに突然にやってきた。
実はこのオフロードツーリング中、ヂチゲとマダムの後について、いかにも危険そうな所を走るときは
「イチニッサン、ニーニッサン、サンニッサン・・・」と心の中で呟いていた私ですの(大真面目)。
いえね、ヂチゲのイデタチが教習所チックで(今でいう自車校ね)、しかも始終後ろの様子を振り返ったりする姿も、当時の指導教官を思い出させるものだから(笑)
一本橋のタイムが問題な私に「いち、に~、さん、し~」では速いから、と、教官はそう数えるように教えてくれたのだった。
これを唱えると自然に体幹を意識し、あら不思議バランスばっちりなのですっ♪パブロフの犬状態(笑)。
以来、のろっのろの渋滞だけど止りたくない!時や、林道の危険な箇所とかでは知らず知らずのうちに頭の中でリフレインしているフレーズ。
けれども、この時は気分の悪さにヂチゲからも離れ、しかも頭を巡るフレーズは「キモチワルイ、キモチワルイ、キモチワルイ・・・」
ふと気付いたら目の前から、バイクが来た!えええっ?
言っておくけれど、対向車などない見渡す限りの大草原で、である。
どこからともなく現れる馬に乗った遊牧民のごとく気付いたら、そこにいた。気が動転した。
二人乗りのそのバイクを操る若者と目が合った。
それは、あたかも歩いている時に道を譲りあって同じ方に避ける・・・かのように
私は(おそらく習慣的に)咄嗟に左に、そして彼もまた進行方向に向かって右に避けたのだった。嗚呼。
彼の戸惑うような顔を見た後は・・・気付いたら私はバイクもろとも倒れていた。
ドスンという鈍い音に「ああ、ぶつかった」と思った。
バイクの下敷きになったのであろうか左足と、ハンドルか何かにぶつけたらしい右肘の内側が痛む。
左足のブーツを恐る恐る脱いでみるが、どうやら骨に異常はなさそうだし、痛みはあるけれど右腕も大きな怪我ではなさそうだ。
後ろについていてそれを目撃していたBOSSが「みっちょんさん、はい深呼吸~!」と言ってくれる。
ひっひっふぅ~。・・・どうやら走れそうだ。
件の若者が何やら話しかけてくるが、私には何のことやら。
落ち着いて考えてみると、ここモンゴルは右側通行である。
たとえそこが大草原のド真ん中で、たとえ道が細い2本の轍であろうと、左の轍を走っていたのはこの私なのだ。
(例えればこんな感じの轍2本の道↑)
争ったなら私の分が悪いはずだ・・・と思えば、どうせ「アンタ何やってんの!」と責める言葉だったのだろうか。
幸い相手にも怪我はなさそうだ。
離れていたはずの先頭集団が遠くで止まっている時、あるいは後続がなかなか来ない時、は誰かに何かが起こった時・・・である。
心配しているであろう先頭集団に追いつくべく、ともあれ走る。
先の水たまりの向こうに仲間の姿が見えた。
2度目の大きな水たまりなど「もうどうにでもなれ!」の勢いで走り抜ける。
BOSSもまた、ショッキングな出来事を掻き消すかのようにザブ~ンと景気よく、びしょ濡れ(笑)。
仲間ってありがたいな、と思う。
※SALLYさん提供
その後しばしガタガタのオフロードを走っていた時は気分の悪さも少し落ち着いていたように思うが
ハルホリンが近づいてきてオンロードに乗ったら、途端に気持ち悪さが戻ってきた。
ああ、ああ、もうダメ!と思い、ウインカーを出して止まった瞬間・・・
バイクを降りる間もなく、ヘルメットを外す間もなく・・・3度目の不意打ちをくらったのだった。
調理スタッフの女性二人が汚れたジャケットを拭いてくれる間も吐き気はとまらない。
苦しさと、情けなさと、・・・そしてそのありがたさに涙が出た。もう、マッタク。
何をやっているのだ、54歳オンナ・・・。
でも、「車に乗った方がいい」と言われたのに「いえ、バイクで走る」と答えたのはオンナの意地・・・
ではなく、治まる気配のない吐き気に「自分の意志で停まれる」と思ったから。これ以上の迷惑はかけたくない。
でも、どこかにやっぱり「悔しい」気持ちもあったかな・・・。
それからどのくらい走ったか、どんな景色だったか・・・正直よく覚えていない。
通訳のゴンちゃんから「ハルホリンまであと19㎞くらい。あとは私が走りますから車に乗って。」
と言われて車に乗り込んだ。
※別日画像だけれど、バイクにも乗れる通訳ゴンちゃん。ヘルメットとバイクがキツそうだけどね(笑)。
胃の中のものを全部出し体温も奪われたのだろう、車に乗り込んだら悪寒までしてきて、あえなくダウン。
この旅唯一の観光であるエルデニ・ゾー(世界遺産である寺院)見学もパス。
やっと着いた宿営地がツーリストゲルであったことが、この日は本当にありがたかった。
着いた途端に胃液まで吐き出し、心配して声をかけてくれる仲間たちにも笑顔すら見せられず、何も食べられず、倒れるようにベッドに潜り込み・・・やっと長い長い一日が終わった。
朝の羊も結局は食べることが出来なかった。夫が私のカメラに収めてくれていたホルホッグ。
しかし、よりにもよって見はるかすかぎりの大草原で交通事故に遭うとは・・・(正確には遭いそうになった、か)。
我ながら宝くじに当たったかのような、ウソのような話、だと思う。
けれどもこの旅を終える頃になって、はたと気づいた。
この旅の間、あちらこちらでどこからともなく現れ近寄ってきた、馬に乗った遊牧民たち。
「博物館に来ないか」と、商業的な目的で近づいてきたのは一度きりで、あとは何か話しかけるでもなくなんとなくそこにいる。
モンゴル人スタッフとは何か話したりして・・・おかげで後日馬に乗せてもらうことが出来たから、どちらかというと好意的。
そしてそのそぶりは見せないけれど、この、物好きなバイクの集団(笑)に好奇的。
そういえば通訳のゴンちゃんが言っていた。この物珍しい集団のことは、通りすがった村には知れ渡っていると。
要するに興味津々、なのであろう。
・・・と思えば、草原を走ってきたバイクが急に近づいてきたことも決して不思議ではない。
私の体調が少し戻った翌日になってから聞いたのだけれど、相手の二人乗りのバイクは倒れなかったそうだ。
ぶつかってはいなかったのだ。私はパニックブレーキをかけたかバランスを崩して転んだのだろう。
二人乗りのバイクは、転んだ私のヘルメットのすぐ脇を通り抜けたそうだ。
ヘルメットについていたかすり傷を確認して、ゾッとした。
そして、料理担当であるスレンとツェギが、その若者をすごい剣幕で叱りつけたことも。
・・・・・あの若者は謝りにきたのだった。
「ダイジョウブ~?ダイジョウブ~?」と旅の終わりまで体調を気遣ってくれたスレンとツェギのことを思うと
、今でも涙が出そうになって仕方がない。
追記:今週NHK総合で放送された 地球イチバン「世界最大の馬のレース モンゴル」はモンゴルのお祭りであるナーダムを取り上げたものでした。
大草原を駆け抜ける馬と必死で乗りこなそうとする子どもの姿に感動再び!興味のある方はご覧くださいませ♪
再放送 NHK総合10/14(日曜深夜)午前1:35~2:25 10/16(水)午後4:05~4:54





