日本のプログレバンド、金属恵比須の新作『武田家滅亡』が8月29日に発売されますが、このたびいち早くフラゲする機会に恵まれました。

関係者以外の一般ファンの中で、おそらく最初に現物を手に入れたのはこの私ではなかろうか。

そこで、アルバムを聴いてそれぞれの曲について感想文などつらつらと書き連ねていきたいと思います。

 

(注:筆者はロックについて狭く浅い知識しか持ち合わせておりません。

また、個人的な感想ですのであらかじめご了承ください。原作本は未読です。的外れな感想があるかもしれませんが、生温い目で見逃していただければ幸甚です) 

 

このアルバムは、作家伊東潤先生の著書『武田家滅亡』の小説サウンドトラックとして制作された。全11曲のうち2曲(★)に作者自ら作詞を手掛け、作家とバンドとのコラボが実現されている。

 

1. 新府城(インストゥルメンタル)

オルガンソロのイントロから始まる。武田家の本拠地である新府城は実は甲斐に非ず、天竺国北部のカシミールの山岳地にあったのだ!! と言いたくなるようなドラマティックな曲。憂いを含んだスキャットにこれから始まる滅亡のドラマを予感させ、一大組曲の序曲としてふさわしい。不穏な展開をみせつつ2曲目へと繋げられている。

 

2. 武田家滅亡★

アルバムタイトル曲。ハードなロックサウンドに乗って怒涛の歌詞を早口で語るように歌うボーカルに緊張感が走る。ちなみに、サビの「武田家滅亡!!」をシャウトする「ディスクユニオン新宿合唱団」。ディスクユニオンでのインショップイベントに参加したファンによって急遽結成され、鬨の声を上げた。

 

3. 桂(インストゥルメンタル)

一転してELPの「賢人」を思わせるアコギの美しい音色が印象的な曲。

優しくたおやかなメロディーが、北条から武田に政略結婚で嫁ぎ、若くして夫と運命を共にした戦国の姫君の気高さを表しているかのようだ。ベーシストの栗谷さんがアコギを弾いているのを聴きながら、同じくベーシストのグレッグ・レイクがアコギで切々と歌う姿が思い浮かぶ。

 

4. 勝頼(インストゥルメンタル)

武田家最後の当主、武田勝頼のテーマ曲。戦国武将に相応しい勇壮でアグレッシブな一曲。ここでの鍵盤の音はキース・エマーソンぽい。ELPの「トッカータ」と「ピアノコンチェルト第三楽章」を彷彿とさせる。また、中間のギターソロが鋭くてカッコいいし、終盤で聴かれる稲益さんのスキャットは武田家終焉の悲哀を感じる。

 

5. 内膳★

勝頼から切れ目なく繋げられている。目前に迫る滅亡は最早避けられない運命と知り、まるで悟りの境地に達したかのような、穏やかで美しい曲。

 

6. 躑躅ヶ崎館(インストゥルメンタル)

雷鳴轟くSEと雨音のようなピアノの音に嵐が差し迫っているかのような緊迫感。終焉の地、天目山を目前に武田家の運命を暗示しているのか。

 

7. 天目山(インストゥルメンタル)

ELPの「アクアタルカス」を彷彿とさせるスネアドラムのリズムで始まる。徐々に迫る滅亡の時、自害を遂げた彼らの前に新府城が蘇る!

「タルカス」で最後にまた「噴火」に戻るかの如く、「新府城」のテーマがリプライズする。まるであの世で再び逢えた二人が地上で過ごしたと同じように新府城で静かに過ごしているかのようなエンディングである。

 

組曲としての『武田家滅亡』はここまで。

後の4曲は単品ですが、8と9、10と11が対になっているような気がしました。

 

8. 道連れ

作詞・作曲 後藤マスヒロ。金属恵比須の他の曲に見られるようなドロドロ感が無く、へヴィーなサウンドながらも明るい印象を受ける曲調。

歌詞の世界は所謂「神」とか「仏」のような目に見えない存在を示しているのだろうか?上昇と下落は次の「罪つくりな人」に通じるものがあるようだ。

 

9. 罪作りな人

先日MVが公開されたので、既に聴いている方も多いかと。

道ならぬ恋に落ち、逃避行の末に入水心中を図るも一方は沈み、一方は浮いてしまう。結局一緒にはなれない運命の二人といったところだろうか。ここでも上昇と下降が見られ、一つ前の「道連れ」に呼応するかのようだ。音はハードロック。

 

10. 大澤侯爵家の崩壊

宮嶋さんの美しいピアノソロ曲。タイトルから没落華族の悲哀を想像する。前半はELPのデビューアルバムの中の「運命の3人の女神 The Three Fates 」2曲目「Lacesis」のオマージュのようでもある。

 

11. 月澹荘綺譚

前曲のピアノソロからイントロに繋いでいく。

2017年4月15日のライブで新曲として発表された。作詞の高木さんによれば、三島由紀夫の短編からインスパイアされたとのこと。

月から連想される幻想の世界と狂気の世界。「光の雪」と「紅葉狩り」を合わせてさらに昇華させたかのような印象を受けた。

中間部のギターソロはピンク・フロイドの「クレイジー・ダイヤモンド」を思わせる。初演時と比べると磨きをかけられ輝きが増したダイヤモンドのような珠玉の一曲に仕上げられている気がする。

そして、アウトロに再び「桂」のフレーズが現れ、次第に遠ざかっていくのが、このドラマティックなアルバムを締めくくるにふさわしいと思った。

(初演時のライブ動画)

 

1~7の組曲に4曲の小品を加えた構成は、アルバム「タルカス」に通じるものがある気がします。

緊張と弛緩の配置や曲の構成が絶妙なので、このアルバムは後半の4曲も含めてランダム再生などせずに、最初から順番に聴くことをお勧めしたいです。

 

以上、長文失礼しました。

これを読んで聴きたくなっていただければこれ幸い!!