観覧車での余韻に浸りながら、パレードに
向かえば、既に軽快な音楽と共に
ダンサーたちがきらびやかに踊っていた。

ゆっくりと進むフロート車から放出される光が
夜の空を彩っていく。


「うわっ!すごっ!めっちゃ綺麗〜!」


目の前を通り過ぎていく光のシャワーを
浴びながら
目を輝かせる雅紀。


と、突然。


な、なにっ?冷たっ…!?


光のしずくがミストになって身体に触れた。


え…?
夜のパレードに放水なんてあったか?



「ひゃっ!冷たいっ!
きゃははっ!翔ちゃんっ!気持ちいいね〜」


うそ…だろ?


はしゃぐ雅紀の頭上を越えて…いや
俺たち2人の真上に描かれてる…それは…



「ねぇ…翔ちゃんっ!コレって…!?」
「雅紀…コレ…」


水と光が描き出した

大きな虹のアーチ…。



「翔ちゃん…俺たち…虹の橋をくぐってる…」

「…あぁ」

「すごっ…」


少しずつ移動していく虹の輪が
ふたりを包み込みながら
光のしずくが降り注ぐ。

その不思議な空間に
息を呑む…。


降り注ぐそのしずくに…
触れるようにそっと手をさしのべれば
俺たちはふたり…

虹に溶け込み…

静かに
虹は…姿を消した。



「…キンちゃんだ…」


フロート車の後ろ。

明らかに俺たちに向けてだろう、赤いやつが
親指を立てながら前に腕を突き出している。


「……やってくれるな…赤いやつ…」    

「くふふ。めっちゃすごいサプライズ
もらったね」



変なキャラクターだと思ってたけど
人は見かけに…いや
魚は見かけによらないな(笑)


『サンキュ。キンちゃん…』

俺は小さく呟いて

雅紀とふたり
手をあげて…赤いやつにめいっぱい
手を振った。


「初デート…ここにして良かったな」

「…うん」

………。

「雅紀…そろそろ…」

「ん…。時間だよね…。帰ろっか」

まだ終わらないパレードに後ろ髪惹かれながら
俺たちは
眩しい光を背にして歩き出した。

今見た光景をしっかり目に焼き付けて
賑やかな音楽だけをいつまでも
耳に響かせながら。










………はぁ〜っ…。


電車に揺れながら子どものように 
足をブラブラッとさせて、雅紀が溜息をつく。



「終わっちゃったね…夏休み」

「明日もまだあるぞ?」

「も〜!そうじゃなくて!
楽しい時間が終わったってこと!」


ちょっとご機嫌ナナメな雅紀くん。
ホッペをぷっくりさせて下を向く。


「ねぇ…雅紀?」

「ん?」

「確かに、今日の楽しい時間はもうすぐ
終わっちゃうけどさ、明日は明日の楽しい
時間が待ってるはずだよ?」

「明日の…楽しい時間?」

「そ。それは今日よりも小さいことかも
しんない。でも、俺はね、どんなコトでも
雅紀と一緒なら楽しいし、楽しめる自信が
ある!」

「翔ちゃん…」

「楽しいって思える時間ってさ。
"好きなヤツと一緒にいるから"なんじゃね?」


「だから、さ」


俺は
雅紀となら。

雅紀と一緒に創る時間
全てが楽しいんだ…。



「楽しい時間は
永遠に終わらないんだよ?」


「翔ちゃん…」

 
ねぇ、雅紀。
俺にとっては

終わった今までも
始まる今からも
全て…
『楽しい時間』なんだよ…。



「さっ。また明日から楽しい毎日が始まるぞ。
今日以上に楽しい明日だぞ?明後日は明日以上
に楽しい明後日。これからどんどん楽しい時間
が増えるぞー?まさき〜っ、どうする〜っ?」


「え?……そっ…か。そうだよねっ!えっ…?
ど、どうしよ〜っ!?」


ふくれっ面から急に目を輝かせて
俺を見る。


ぷっwww
本当、、、こういうとこ、単純というか
純粋というか…かわいいんだよな…。


「一生一緒に楽しむぞっ!雅紀」


雅紀の大好きな「頭ぽんぽん」してやると
嬉しそうに顔を赤らめて…



「うんっ!」


いつも以上に
ひまわりの笑顔を咲かせた。



朝より静かな電車の中。



「楽しかったね…翔ちゃん…」



「あぁ…楽しかったな 」

  

……。



「ありがと。翔ちゃん」
  

「ん?」


「今日はありがと。へへへっ」


雅紀…。


はにかみながらにっこり笑う。


「…俺の方こそ…ありがとな…」


小さな会話の一つ一つさえも
楽しい時間の1つ。



「明日も楽しみだね、翔ちゃんっ!」


「ん…」


「…明後日も…楽しみ…www」

「wwwそれは明日になってから言えば?」

「えーっ!今、言いたかったんだもん!」

「…。そかw」



くふふ
ふふふ


ほら。やっぱり。


今も…明日も…明後日も

君と一緒なら

毎日が楽しみで

いつでも……


幸せなんだ。


「寝てもいいぞ?着いたら起こしてやるから」

「そう言って朝、翔ちゃんの方が寝ちゃった
じゃんwww」

「え?そうだっけ?www」

「んも〜。ま、いいや。
先に目が覚めた方が起こそ?」

「2人で寝過さないように、な?www」

「だねwww」

「おやすみ翔ちゃん」

「おやすみ…雅紀」




揺れる電車の中


明日の楽しみを夢みて


2人

寄り添いながらそっと目を閉じた。







おしまい。