「ゔ〜。しょぉ〜ちゃ〜ん。
なかなか前に進まないね〜」


午前中、スムーズに楽しめていたアトラクショ
ンも、さすがに夏休み最後の日曜日だけあって
徐々に混み始め、とうとう至る所で時間待ち。


さらに、午後からの太陽が熱線攻撃をはじめ、
暑さと待ち時間の闘いに、さすがの俺たちも、
ちょっとバテ気味になっていた。


「どうする?乗り物やめてどっかで休む?」

「う〜ん。俺…喉渇いたなぁ…。あっ!あれ!
しょぉ〜ちゃ〜ん!アイス食お?」

「は?何で?喉が渇いたんだろ?
水かお茶にしとけ!逆に喉渇くぞ?」

「えー!俺、あのアイス食べたいっ!」


 雅紀の指した指の先……。


あー。あれ…か。
遊園地のキャラクターアイス、ね…。


「ほら!あのキャラクターアイスかわいいっ!
一緒に食べよ♡」


………。

うん。いや…。いいけど、さ。

……。

なんだろう…。

今日の雅紀はいつもとちょっと違う。

いや。これが本来の雅紀なのか…?


ガンガン飛ばしてくる意思表示。


俺に対しての緊張が解けたのか?
俺と一緒でも素の雅紀でいられてるってこと?




だとしたら………


俺としては…ちょっと…

……嬉しい…かも…。



ただ、、、。


こいつは…。

なかなかの小悪魔ぶり…で…。



「ねっ!しょ〜ちゃ〜んっ♡2人で一緒に 
食べたーいっ♡」


首を傾げてオメメきゅるるんって、、、



なんなんだよっ!?
どこで身につけたんだよ!?そんな技っ!


断れるわけ…ねーだろ…。

………そんな…キラキラな目で見られたら…。



「…ったく。喉渇いても知らねーぞ」
  
「やった♡俺、買ってくるね!」

「大丈夫か?」

「うんっ!そこ、席とっといてね!」


飛び上がって跳ねるようにお店に向かう雅紀。

サラサラの茶色の髪が太陽の光で金色に輝く。
俺はベンチに座って見惚れるように見つめてい
た。


と、、、突然


クルッと振り向いて、俺を見てにっこり笑う。



ふふ…

なんだよ…


…可愛いすぎ…



「……まいったな、、、」


俺は…そんな雅紀の些細な仕草に…
また…恋に堕ちる。


はぁ……。


俺は膨らみすぎた「好き」の気持ちを、
ゆっくりとため息で漏らした。






「翔ちゃんっ♡お待たせ〜っ!」


嬉しそうに差し出されたキャラクターを形どっ
た、オレンジ色のシャーベット。


「はい。翔ちゃんあ〜ん♡」



 そう…。

購入してきたのはたった1つだけ。

一緒に食べるって…そういうことっ!?



それにしても……雅紀くん………。

君は、、、いつからにそんなに…
積極的になったんだいっ?



「ほら!食べて♡食べて♡」

「え?……あ?あぁ…」



完全に雅紀のペースにのまれながら
ドキドキのまま一口かじる。



シャリッ…


「ね?美味しい?」

「うん…美味い。雅紀も食ってみ?」

「うんっ!」


シャリッ…


「ん〜!冷たくておいしっ♡
あ!翔ちゃん大丈夫?歯に滲みたりしない?」


「だから〜。俺の年いくつだよっ! 1つしか年
違わねーだろって!」


あひゃひゃひゃひゃっ

雅紀が笑う。 

いたずらっこのように楽しそうに。


かと、思えば…

 

「…ねぇ…。しょおちゃん?」


「ん?」


「俺…さぁ。今…めっちゃ幸せ…」
くふふ


伏せ目がちに照れながら

少し大人びた顔で…笑う。



「雅紀…」


そんな雅紀の色んな顔に魅せられて
俺は自分の昂ぶる感情に制御が追いつかない。



敵わないよ…本当に…。


俺は…多分…こうしてずっと雅紀に
感情を振り回されながら
どんどん雅紀に夢中になっていくんだろうな。


「…俺も幸せだよ…」

「翔ちゃん…」



きっと…この先もずっと

永遠に

俺は…雅紀には…敵わない。


だって…


雅紀の笑顔の先には
俺の"幸せ" しか見えないから。



「雅紀…」



好きだよ…雅紀。

これからもずっと…

そばにいて…


心でそっと呟きながら

溶けかけのアイスを握りしめた雅紀の肩を
包み込むように

ゆっくりと後ろから手を回した。