「まーくんはゆうくんの夢、知ってたの?」

俺は「まーくんのお嫁さん」から話題を逸らした。実際、気になってたところだし。
知ってたよね、絶対。

「まぁね。実はさ、父ちゃんがいずれ脱サラして飲食店出すって言いだしてさ」
「ええ!?お店だすの!?」
「そう。なんか昔からの夢らしいよ。したら、ゆうの奴がすっかりその気になっちゃってさ」

うーわー!
まーくんのお父さん、スゴいな。
俺はあんまり驚いて、口をポカンと開けたまま、立ち止まった。

「黙ってたのは悪かったけど、やっぱさ、ゆうが自分で言うほうがいいと思ったから」

まーくんも俺に合わせて立ち止まり、なんだかイケメン顔でそう言った。
そうかな。教えてくれてもって思うけどね。
黙っている事と嘘をつくことは同じなのか、違うのか、俺には永遠にわからないみたいだ。
でも今は、

「いくつになっても、夢ってあるんだ…」

とりあえずそれにびっくりした。
俺にはまだなんにもないのに。
まーくんにもゆうくんにも、翔ちゃんも潤くんも、そしてまーくんのお父さんにまであるのに。

漠然と生きてる自分が、一人だけ取り残されてるような気持ちになった。
走っていくみんなの背中をただ見てるだけ…。
ポツンと一人で自分の影を踏んでる俺。
そんな情景が目に浮かんだ。

「かず」

まーくんに軽く引っ張られて、我に返る。

「焦んなくていいよ。俺たち全部これからじゃん」
「べべ別に、焦ってなんかないもん」

なんでバレてんだろ。
俺、なんか無意識に喋ってたっけ?

「ゆっくりでいいじゃん」
「…ニートになっても?」
「いいよぉ、俺が稼ぐ!」
「またそんな事言って。知らないよ」
「大丈夫、任せろ!」

ドンッと胸を叩いて、ゴホゴホ咳き込むまーくん。ホント力加減バカ男なんだから。
俺はまーくんの背中をそっとさすった。
顔を上げたまーくんの瞳が俺をとらえる。

「ずっとそばにいるからさ!」

そう言って、まーくんが腕を伸ばし俺をギュッと抱きしめた。だから、返事の代わりに俺も素直にギュッと抱きしめ返した。

いつもは気になる道行く人の視線だけど、いいや。見られても構わない。
きっと俺たち二人なら無敵だ。
そう思えるくらいまーくんの腕は温かかった。

そんな夜。
夜風から春の匂いがした。











おしまい




読んでいただきありがとうございました!!
後ほどあとがきをあげます♡♡