ゆうくんの春休みも今日までという日。
いつものように美味しそうなお出汁の匂いのするリビングではなく、俺たちはゆうくんの部屋で向かい合っていた。

「だぁから、なんで兄ちゃんまで居るわけ」
「そりゃ、おまえの部屋でかずと二人きりって訳にいかないからね」

リビングでだって居るくせに…とゆうくんはゲンナリした顔でまーくんを見る。
俺は落ち着かない気持ちで座っていた。
大事な話ってなんだろう。

「明日からついに三年生だな」
「だからなに?」
「ゆうはさ、かずに話さなきゃいけない事があるんじゃない?」
「えっ…」

ベッドに座って足をプラプラさせていたゆうくんの動きが止まる。

「なんの事?…別に」
「へええ、そうかなあ?俺から話しちゃおっかなあ?」
「なななんだよっ」

兄弟喧嘩が始まりそうな雰囲気に、思わず俺は「まーくん!なんの話なの」と、口を挟んだ。

「ゆうの志望校の話っ」

全く想定外の言葉だった。
大事な話って志望校のことなんだ?
まだ決まってないのかと思ってたけど、もしかして決めたのかな。それならよかったじゃん。
でもゆうくんの顔を見ると、頬を赤らめて下を向いていた。

ちょっとの間、部屋はしんと静まり返っていた。
俺は訳が分からず、まーくんに視線を送った。まーくんは黙ってゆうくんを見つめている。
だから俺もそれにならって、黙って待った。

ゆうくんは俯いたまま口を開いた。

「……俺、調理師学校に行きたいんだ」

俺はポカンとした。
これまた想定外で、とっさに言葉の意味を理解できなかったんだ。