「…とりあえず、帰るか」

今までヒートアップしていた相葉兄弟だが、急に我に返ったみたいに、ため息つきつき、駅前方面に向かって歩き出した。
えー、俺、そんな変なこと言った?
落ち着いてくれてよかったけど、なんか腑に落ちないっての。

「ほら、帰るよ」

まーくんが手を差しだす。
口を尖らせつつ、俺は素直にその手を取る。
どこかで酔っ払いがクダを巻いているのか、ドラ声と若い女の人の嬌声が響いてきた。
俺は無意識にまーくんにぴっとりとくっつき、足を速めた。

「大丈夫だよ、大丈夫」

まーくんが静かに繰り返す。
俺は目を閉じてこくんと頷いた。
ゆうくんはそんな俺たちを横目でチラ見してから、無言で先を歩いていった。


アパートに帰る前に、ゆうくんを実家まで送ったら、おばちゃんが泊まっていくと勘違いして、バタバタ準備し始めてしまった。
「連絡くらいしなさいよ!」と口では文句を言ってても、嬉しそうなのが伝わってきて、なんだか断りづらい。
俺もすぐそこなんだし、家に帰れば母さんも喜ぶんだろうなと思ったけど、今はまーくんから離れたくなくて黙っていた。

「いいじゃん、朝までゆうとじっくり話そうじゃないの!」

まーくんが顎を突き出すような顔で煽り、ゆうくんの腕をガッチリ掴んだ。いやいや、笑顔なのが逆にコワイのよ。
そのままゆうくんの部屋に入り込む。

「もーいいじゃん、めんどくせぇ…」
「なになに、おまえ、かずに告ったの?そのために二人っきりの映画に誘ったわけ?俺にナイショでさあ!」
「ハイハイ、そーですよ、それでフラレましたぁ、もーそれでいいじゃん」
「よくねぇわ!」
「なんでだよ、俺だってかずくんに気持ちを伝える権利はあんだろ?ダメ元でもさあ!」

俺は次々繰り出される言葉のラリーを、ただただ目で追ってオロオロしてた。
小さい頃からゆうくんに好かれているのはわかっていたよ。でもそーゆー意味だったとは思ってもみなかった。普通思わないよね?

「かずが困るだろ」
「俺だってずっと困ってたの!だから彼女作って付き合ったりしてさあ」

そうだよ、彼女いたじゃん。
それはなんだったの。
その心の中の言葉が通じたのか、まーくんが俺を振り返り、ゆうくんを親指で指さした。

「こいつの彼女、どんな子だったと思う?」
「どんなって…」
「かずによく似た子だったの!」

……頭を鈍器で殴られたような大ショック。
嘘だろ、うそだろ、嘘だろおぉ。
俺はもう、どんな顔をすればいいのかわからなくなってしまった。

「ま、かずのが全然可愛いけどね!」
「うっせーな!」

いや、そこじゃないんだって。

考えてみれば、玄界先でまーくんとキスしてる所を見られた時、大騒ぎにならなかった段階で察するべきだったのかもしれない。

自分の鈍感さに、さすがに申し訳なくなった。