薄暗い路地の一角で、俺はゆうくんと向き合った。ギラついた派手なピンク街の喧噪が遠のいて、ぽちんと灯った電燈の下は妙に静かだった。

「別に…女の子、キライじゃないよ」

それは嘘じゃない。
綺麗な女の子を見ればドキドキするし、エロ動画にフツーにコーフンもするし。
てか、男が好きなわけじゃない。

「でも兄ちゃんと付き合ってんでしょ?」
「そ、だね」

ゆうくんは「やっぱ、よくわかんないなぁ」と、自分の足元に視線を落とした。
そんな姿を見て、俺は思ったんだ。

自分の兄が男とそういう関係にあるって事実が、ゆうくんは嫌なんじゃないかって。

そりゃ、そうだよな。
理解できない事が身近にあるんだもん。
俺自身も、ゆうくんが納得できるような説明ができる気がしない。

「…ごめんね」

それでも伝えようとは試みた。

たぶん、たぶんだけど。
みんな心の中に持ってると思うんだ。
その人にとっての一番大事な一等席。
いろんな経験をして、たくさんの人と出会って、いつか一番好きな人がその席に座る。
でもね、もう最初から居たんだ。
その椅子にまーくんが座ってた。

そして、まーくんの心の中の一等席には、たぶん俺が座っていた…。


伝わったのかはわからない。
わかってもらえるとも思わない。
だから、「ごめんね」って謝った。

「なんで謝んだよ!」

思いのほか強い口調でゆうくんに言われて、俺は顔を上げてゆうくんを見た。

「謝んないでよ…」

ゆうくんの声が震え、その目は真っ赤で、泣いてるみたいだった。