本当は俺もまーくんも、ホラー映画はあまり得意じゃない。

子どもの頃、うちと相葉家でキャンプに行くと、必ずと言っていいほど酔ったまーくんのお父さんが怪談を披露してくれて。
今思えばたいした話じゃないんだけど、当時はホントに怖くてさ。トイレもまーくんとふたりで行ったりしてた。

俺よりまーくんの方が怖がりなんじゃないかな。マジで嫌がってたもん。
いつもは何かあると、まーくんの背中に隠れる俺だけど、その時ばかりは「大丈夫だよっ」と、空元気で強がってみせてた。


だから、中学の時にホラー映画を観に行こうって言われたのには驚いた。

「え、この映画ホラーだよ?」
「大丈夫!俺がついてるからっ」

ええぇ、なに?
それ、俺のセリフ。
いつもと立場が逆じゃん。

まーくんの顔をまじまじ見ても、ふざけてるわけではないようで、至って真面目な表情。
まぁね、もう中学生だし?
いつまでも怖がってるのもなんだしと思って、俺もその気になった。

その映画は、外国産の阿鼻叫喚なホラー物とは違って、どちらかと言うと精神に来るタイプだった。
もちろん、ジャンプスケアな場面もちゃんとあって、全く心臓に悪いよな。

薄暗い並んだ座席に座って、まーくんが俺の手をしっかり握ってる。

「大丈夫、大丈夫だよ」

そう言う端から、汗でじっとりしてくるお互いの手のひら。
スクリーンからの光で浮かび上がるまーくんの横顔。その目は必死に前を見つめている。
時に、ビクッと肩を揺らし、椅子の上で飛び上がり、俺の手をきつく握りしめ。

俺はそんなまーくんの横顔に見とれていた。
そして、ギュッとその汗ばんだ手を握り返した。

ふたりで居れば大丈夫。
怖いものなんてナイんだから。