春先のまだ冷たい風に首をすくめながら、待ち合わせの駅前に行った。
遠目にゆうくんを発見。
ターミナルの柱に寄りかかって、スマホを見てるゆうくんの耳には白いイヤホン、音楽でも聴いているんだろう。

やっぱり立ち姿もまーくんに似てるな。
服のセンスがいい所も。
高校生の頃のまーくんを見てるみたいで、ちょっとドキドキしてしまった。

「お!かずくん」

顔を上げたゆうくんと目が合う。
ヤバい、赤くなってるだろう耳を隠したい。

「あれ、そんなに寒い?」

ゆうくんがごく自然に、両手で俺の耳を包んだ。本当にまーくんみたいで、不覚にも目が潤みそうになり、俺は慌ててぷるぷる頭を振った。

「耳、ほかほかじゃん」
「べべ別に寒くないもん」

ゆうくんは、「今日は先生モードじゃないね」と笑ったから、自分が対まーくんの時の喋り方になっていた事に気がついて、顔まで赤くなりそうで焦る。

「なんか、少し食べて行こ!」

ゆうくんの手を振りきって、ハンバーガー屋さんに小走りで向かった。落ち着け、俺。
俺を呼ぶゆうくんの声が風に乗って追いかけて来たけど、振り返らなかった。


映画は六時半からだった。
さっきハンバーガーを3個平らげたのに、ゆうくんはバカデカいポップコーンをしっかり買い込んでいる。さすが食べ盛りだ。
俺はその匂いだけでもう、胸焼けがしそう。

小さめの上映ホールは、それなりに人が入っていて、ちょっと意外だった。
スゴく面白いホラー映画だけど、リバイバルだからさ。封切当時、この前まーくんと観たアクション映画と変わらないくらいの人気で、ロングランになっただけの事はある。
やっぱりその時、ゆうくんを連れて行ってあげればよかったな。

そんなゆうくんと並んで座る。
ほの暗い座席でスクリーンを眺めると、なんだか不思議な気持ちになった。

泣きながら俺たちのあとを追いかけてきてた、幼いゆうくんはもういない。
こんなに大きくなっちゃって。
鼻たれのゆうくんが懐かしいな…。

そんな感傷に浸っている俺をよそに、ゆうくんは本編前の宣伝の間に、ポップコーンを半分くらいそのお腹に収めていた。
恐るべし。これで太らないんだからな。

しかし、映画が始まってからはその量が全く減らなくなるとは、その時の俺たちは知らない。