「ニノさんって、いつも髪の毛跳ねてますよね」

山田くんがめずらしく話しかけてきた。
家庭教師の時間、ほとんど勉強のことしか喋らない、なんなら勉強の事もほぼ喋らない山田くん。

一緒にゲームするようになって、「先生」から「ニノさん」に呼び方が変わった。まぁ、戦闘中に先生呼びなのもなんだし、山田くんの方が上手いのに俺が先生ってのもね。
なにより、ちょっと親しげでいい感じだ。

「えー?あんま気にしないけど…やっぱかっこ悪いかな」
「いえ、可愛いですよ」

かわいい?
まーくんのおかげで?言われ慣れてるとはいえ、年下の男子高校生に言われるって、どうなの。
返事に困ってしまう。

「この前駅前で見かけた時、悪い奴に絡まれて困ってるのかと思いました」
「あ、歩道橋のとこ?」
「そう。なんか目つきの悪い奴だったんで」

本郷は目つき悪いもんな。
アイツの三白眼を思い出し、つい笑ってしまった。悪い奴じゃないんだけどね。

「最近物騒みたいですよ。駅の真ん前はそうでもないですけど、奥のゴチャついてるとこなんか気をつけないと」
「そーなの?今日、この後行くんだよね」

ホラー映画が上映されているミニシアターは、まさにそういうゴチャついた場所にあった。
その話をすると、山田くんはそのキレイな顔を少し曇らせた。

「気をつけてくださいよ」

いい子なんだよな、ほんとに。
もう少しくだけた感じになって、笑顔が見たいなぁと、あらためて思った。