こんな感じで始まった俺の家庭教師バイトだけど。実は、もう一人生徒がいる。
ゆうくんを教えるとは思ってなかった俺は、潤くんに相談していたんだ。そして、潤くんのつてで、春から高校二年生になる男の子を紹介してもらっていた。
今日初めてその子のお宅にお邪魔する。
全然知らない相手なので、さすがに緊張感ハンパない。ただしこちらは、受験生ではなく、ふだんの学校の勉強についていくための家庭教師だ。
「はじめまして」
対面して驚いた。
めちゃくちゃキレイな子じゃん。
髪の毛は白っぽい金髪だし、白い手にはちょっとゴツい指輪まではめてて、ちょっとビビる。
整った顔はまるでお人形さんみたいで、コッチがまごまごしてしまった。
「はじめまして。よろしくお願いします」
俺の挨拶にぺこりと頭を下げる彼、山田涼介くんは丁寧に返してくれた。けど、俺をチラリと見ただけで、目線は合わない。
「キレイな金髪だね」
とりあえず、そう話しかけた。
山田くんが「うちのガッコ、自由なんで」と答えて、会話終了。なかなかクールだなぁ。
親が勝手につけた家庭教師…らしいから、もしかして気が進まないのかもしれない。
まぁ、俺は俺のすべき事をするだけだよな。
でも、始めてみたら、山田くんはすごく真面目だった。
俺の指示する問題を黙々と解き、俺の説明を黙々と聞く。間違いがけっこう多くて、説明もたくさんしたけど、じっと耳を傾けている。
なんなら受験生のゆうくんより、よっぽど真面目なくらいだ。
ただし、全く打ち解けてはくれない。
三回以上通っても、その態度はほとんど変わらなかった。
「なーんかなぁ、嫌われてんのかな、俺」
ついつい、まーくんに愚痴る。
夕ごはん用に、二人で餃子を包んでいるところだった。
同棲?生活も二年目。
節約も兼ねて、できるだけ自炊を心がけてる俺たちは、バイトのない日に、餃子を包むまでのレベルに達していた。
もっとも腕を上げているのは、もっぱらまーくんで、今じゃ唐揚げやしょーが焼きも作ってくれる。まーくん家はお父さんも含めて料理上手だから、その血を引いてるのかもね。ちなみにゆうくんも料理好きらしい。
「嫌ってはないっしょ。人見知りなんだよ、きっと。人見知りな俺にはわかる!」
「そーかなあ?だって笑顔、一度も見たことないんだよ?すごくない?」
「そっかぁ、…ホイできた」
まーくんはくふくふ笑って、フライパンに油を塗る。キレイに餃子が並ぶフライパンがじゅうじゅう言って、香ばしい匂いが漂った。
「少し一緒に遊んでみたら?」
「一緒に遊ぶ?」
家庭教師して似たような経験があった時、まーくんは教育学の先生に聞いてみたんだって。
「その山ちゃんが興味ありそうな事、一緒にやってみるとかさ」
早くも「山ちゃん」とか勝手に呼んじゃって。友達かよっての。
サッカー少年だと潤くんが言ってたけど、それは無理。野球ならなぁ、キャッチボールとかできるのにな。
「見てるだけでもいいんだよ。共通の話題があるとなつきやすいからさ」
なるほどね。
さすが教育学部だ。