俺が食べきれないポテトを、ゆうくんがコーラとともにあっさりお腹に流し込んでくれた。
氷がとけて少し薄くなったアイスコーヒーをひと口飲んで、俺はスマホをのぞく。
まーくんからメール、来てないかな…。

「かずくん、この後空いてる?」
「…ん?」
「映画、観に行かないっ!?」

またまたそんな、ガキんちょみたいな顔をして。いちおー、今日は家庭教師としてきてるんだけど。全然受験生モードにならないじゃん。まぁ、まだしょうがないか。

俺が返事をする前に、素早くトレイを片付けたゆうくんが俺の手を掴んで引っぱった。
あ、いけね。油断した…と思う間に外に連れ出される。相変わらずのせっかちだな。

「なに、観たい!?今ならさ…」

そこまで言いかけたゆうくんの頭に、ボスリと被せられる赤い帽子。キャップのつばが目より下までいってて、おそらく視界は真っ暗。
突然のことに、「ぎゃっ!!」と叫んで慌てふためくゆうくん。

「はいはい。受験生はさっさと家に帰って勉強しよーねー」

降って湧いたようにまーくんが現れ、うろたえているゆうくんの手から、俺の手をするりと取り戻し、自分の手の中に収めた。
あんまりスムーズで、まるで映画のワンシーンみたいだ。俺はポカンと二人をみつめる。

「……現れやがったなあぁ!」
「それ、おみやげ。今日バイト先で貰ったんだけど、俺ら黒いの持ってるからさ」
「ら、って、なんだよ!」
「そりゃ、お・そ・ろ・い♡」

まーくんの笑顔が炸裂する。
もー、わざとやってるだろ。そんなに煽ってどうすんのよ。
案の定、ゆうくんはギリギリ歯噛みしてる。

「なんでここに居るってわかったんだ?」
「愛の力かなっ」

いやいや、俺がハンバーガー食べて帰るってメールしたからだよね。

「まさか、かずくんのスマホにGPSとか、仕込んでんじゃないだろな!?」
「そ…、んなん訳」

ちょっと待て。
まさかそんな事、してないよね?

ゆうくんのほうを見てニコニコしているまーくんの顎を、ぐいと掴んでこちらに向けた。
まーくんの瞳に俺が映る。

まさか、してないよねえ!?

「してない、してないって」
「ホントに?」
「…してみたいって思った事は、あるけど」

うわっ、コワ!!
監視したいってこと?ストーカーかよ。
さすがにそれは、気持ち悪くない?
ドン引く俺に、まーくんは顔を赤らめた。

「だってさ、またかずになんかあったらって心配だから…」

そう言われると、何も言い返せない。
トラブルに巻き込まれがちな俺を、本気で心配してくれてるまーくん。
その気持ちが伝わってきて、俺はまーくんにしがみつきたい衝動に駆られた。


「んじゃ、俺、帰るわ」

ゆうくんの声に我に返る。
ゆうくんはくるりと踵を返し、帰っていった。