駅前の大型本屋は、午前中でもそれなりの数のお客さんで賑わっていた。
俺とゆうくんは手を繋いだまま、参考書や問題集の区画に向かっていたのだが、ゆうくんの足が止まった。

「…え、誰?」

俺たちの行く手を阻むかのように立つ店員がひとり、こちらを見ている。睨んでると言っても過言ではない、見覚えのある三白眼。
あれは…。

「本郷!?」
「……」
「まだここでバイトしてたんだ?」
「おまえこそ、なんだ、新しい男連れて。節操なしだな。アイツはどうした」

うわぁ、ひどい。なんて事言うの。
そんなんじゃないし!
相変わらず口の悪い本郷に、ゆうくんが怯みつつ、俺を庇うように一歩前に出た。

「なんなんスか、あんた…」
「アイツの身内か?輪郭も骨格も似てるな」
「…は?」

気味悪そうに本郷を見るゆうくんに、俺は慌てて説明する。
コイツのなまえは本郷奏多で、高校の同級生。今現在は最難関医学部の学生なこと、俺が受験の時数学を教えてもらっていた事も話した。

そして本郷に、ゆうくんがまーくんの弟であり、俺の家庭教師先の生徒だってこと、今日は問題集を買いに来たのだと説明する。

その間本郷の目線が、俺たちの繋がれた手にビシビシ刺さるので、振りほどこうとするも強く握られていて離せない。

「…見損なったぞ」
「だから、違うって!幼なじみなの!」
「………」

本郷の目が冷たい。
コイツは俺とまーくんの仲を知っているんだ。
ああぁ、手を繋いでるとどんどん誤解されてしまうって。
「ちょっと、ゆうくん…」と、手をなんとか離そうとするけど、ゆうくんは本郷をまっすぐ睨んでいて気がつかないみたいだ。

「違うんだって、ちがっ」
「そんなに焦ると本当に誤解するぞ」
「えっ」

本郷はくるりと背を向けると、カウンターの方へ歩いていってしまった。
俺たちはボーゼンとその後ろ姿を見送った。

「なんだ、アイツ」

ゆうくんのつぶやきに、少し悔しさを感じたのは気のせいだろうか。
俺はため息をつき、一応フォローしておいた。

あんなだけど悪い奴じゃないんだよ…、と。