やっぱり、ゆうくんもせっかちだった。
昨日の今日で、さっそく本屋に行く約束をさせられた。さすが、相葉家の血は侮れない。

駅前のバスターミナルで待ち合わせ。
少し早く着いた俺は、空いているベンチに座って、ぼんやりと行き交う人達を眺めていた。

眠い、てか、だるい。

なんでか知らないけど、昨日アパートに帰ってからのまーくんはちょっとしつこかった。
お風呂にも入ってないのにシたがるし。
俺は胸を合わせないと落ち着かないのに、後ろからシたがるし!
なんなんだよ、もう…。
なんて、思い出していたら、

「かずくん!待ったあ?」

突然目の前に、ゆうくんの顔が現れてびっくりした。危なっ、ベンチから落ちるとこだった。

「あれ?顔、赤いよ。なんかあった?」
「へっ…?」

俺は両手でほっぺたを押さえ、「なんも、なんもないよ」と急いで立ち上がった。
危ないあぶない、ヘンなこと思い出すんじゃなかった。もー!全部まーくんのせいだからね。

そそくさと本屋へ向かおうとする俺の手を、ゆうくんが握った。ハッとして、ゆうくんを見る。

「へへっ、懐かしいね。昔はこうやってよく歩いてたな〜」

ゆうくんはそう言って、ブンブン繋いだ手を振った。勢いよすぎて俺の足元がふらつく。

「兄ちゃんはさ、俺の歩くスピードとかなんも考えないで、ガンガン進むからさ。俺はかずくんと手を繋ぐほうが好きだったんだよね」
「そう、だっけ?」
「えー、兄ちゃん、かずくんとだとちゃんと合わせて歩くんだぜ。ズルいよなあ」

そうだったんだ。
まーくんに連れられたゆうくんが、俺に手を伸ばして、手を繋ぎたがったのはそのせいだったんだ。当時の鼻たれのゆうくんの顔が今の顔に重なって、しばし、思い出に浸る。

と、急にゆうくんが立ち止まったから、手が引っ張られてコケそうになった。
ゆうくんはキョロキョロと辺りを見回し、なにやら警戒している模様。

「…えぇ、なーにぃ?」
「こーゆー時、絶対兄ちゃんが現れると思ったんだ。居ない?いないのか?」

いて欲しいのか、いて欲しくないのか。
ちょっと期待してるようでもあって…よくわからない兄弟心理。
でも大丈夫。今日はアパートに置いてきたし。
まーくんもバイトの日だしね。