小さい頃から、いつも俺らの後を着いてきたゆうくん。
遊びに夢中で、ちょっと距離があくと、必死になって追いかけてくるその姿が可愛くて。
俺と手を繋ぎたがるから、ゆうくんを真ん中にして三人並んでよく歩いた。たまに疲れてまーくんの背中で寝てることもあったな。
そんなゆうくんが、今や俺の背なんて追い越して、目の前で豪快にドーナツにかぶりついている。
「俺、かずくんにしか勉強みてもらわないから。兄ちゃんがなんと言おうと絶対!」
「わかった。俺からもまーくんに言っとくよ」
苦笑いが漏れそうになるのをこらえつつ、ゆうくんの食べっぷりを眺めてると、
「かずくんも食べなよ」
そう言って食べかけのドーナツを俺の口に押しつけてきた。そういえば小さい頃はひとつ全部が食べきれなくて、こんな事よくされてたな。
まぁ、俺はほとんどまーくんと半分こしてたから、その押しつけられた分は結局まーくんが食べてくれたけどね。
「後にするよ」と、ゆうくんの口にドーナツを返却する。口元についたドーナツが甘くて、余計におなかが空いてしまった。
「ついてる」
「え?」
ふと、ゆうくんの指が俺の唇に触れた。
誰のせいだよ…って笑おうとしたけど、ゆうくんの目が笑ってなかったから、口が半開きのまま俺は止まってしまった。
一瞬静まり返るリビング。
「おぉい!今そんなに食うなよ!」
戻ってきたまーくんの声が響いた。
STOPの呪文が解けたみたいに、俺はまーくんを見上げた。そしてなんだかホッとして、隣に座ったまーくんに少しだけにじり寄る。
「母ちゃんがごはん作ってんのに、食べられなくなるだろっ」
「全然へーきなんですぅ!男子高校生、なめんなよ」
ゆうくんが更にもう一個手に取ったので、兄弟であーだこーだ揉めだした。
あかんべーする所なんか、本当に昔のままのゆうくんで思わず笑っちゃう。よくやってたもんな。
「昔は可愛かったのに!」
まーくんが大げさに嘆いてみせる。
思い返せば、ゆうくんが中学生になった辺りから、まーくんに突っかかるようになった気がする。いわゆる、反抗期ってヤツ?
親にだけでなく、兄にもするもんなんだなー。
俺もまーくんも、ろくに反抗期が無かったから、妙に感心してしまった。