簡単な冬支度だったけど、やってよかった。
12月も中旬近くになると、雪でも降りそうなくらい寒くなったから。

大学の冬休みはクリスマス辺りからで、俺は相変わらず大学生協のバイトを続けていた。
本当は家庭教師とか、もっと稼げそうなのをしようと思ってた。でもまーくんが渋るんだよね。
生徒が男でも女でも心配なんだって。相手は子どもだよ?心配する事なんてある?
自分はやってるのにさあ。

それでこっそり、家庭教師先の当てがないか潤くんに頼んでるとこ。
見つかるといいなあ。


夕方、もう暗くなった道を帰ってくると、克実ちゃんが玄関ドアを開け放して掃除をしていた。

「こんな時間に掃除?」
「おぉ、坊主、おかえり。いや〜要領悪くて暗くなっちまったよ」

聞けば、年末の大掃除をしているんだって。
明後日には家族のいるお家に帰るらしい。
それまでに大掃除を終わらさなきゃって、鼻を赤くしてあちこちゴシゴシ拭いているのを見ると、内心掃除なんかしなくても新年は来るのにと思いつつ、少し手伝ってあげた。

「坊主、助かったよ。ありがとな」
「あのさぁ、俺にも名前あんだよね」
「ハハッ、悪い悪い。じゃあ、かずくんか」
「にの、でいいよ」

かずって呼ぶのはまーくんだけだから。
ちょっと特別なんだよね。俺が勝手に思ってるだけかもしんないけど。

「お礼にぜんざい食ってくか。餅、焼いてやる!あったまるぞぉ」

それで俺は克実ちゃんちに上がり込んだ。
克実ちゃんが作ったぜんざいかと思ったら(ちょっとコワイ)、昼間奥さんが掃除がてら、持ってきてくれたんだって。
コンロの上のもち焼き網で器用にお餅を焼く克実ちゃんは、デレながらそう教えてくれた。はいはい、大好きなキレイな奥さんだもんね。
俺はこっそり置かれている奥さんとのツーショット写真をチラリと眺めた。

お餅が焼けるまで、俺はキレイになった(たぶん)本棚に並んだ背表紙をぼーっと目で追っていた。すると、一冊だけ栞?が飛び出している本に気がついた。

ただの好奇心だったんだと思う。暇だったし。俺は何の気なしに、その本を手に取ったんだ。
栞が挟まれているページを開いて、俺は声を上げそうになった。

栞だと思っていたものは、写真だった。
しかもそれには俺が写っている。
全く覚えのない俺の写真が数枚挟まれていた。

俺?なんで俺の?

頭の中が真っ白になった…。