外に出ると、よく晴れて日差しが暖かかった。
寒いのはとりあえず朝晩なんだよな。体調崩さないように気をつけなきゃ。
なにしろ体力おばけのまーくんだけど、いつでも全力投球のコイツは無理しがちで、しかも無自覚ときてる。俺が見てないとダメなんだ。

「おはよーございます!」

まーくんの元気な声が二階の廊下に響く。
まーくんの背中越しに覗くと、ひとつ置いて隣に住んでいる高橋のおじちゃんが、扉を開けて掃除をしていた。

「おぉ、坊主たち。お出かけか?」

このおじちゃん、最初の頃はちょっと怖くてニガテだったんだけど、まーくんが自然気胸で倒れた時、救急車を呼んでくれた恩人で。
それ以来結構仲良くしてるんだ。
特に俺。

「克実ちゃん!なんかまたオススメの映画ない?今度部屋で観たぁい」
「こら、かず!またそんな呼び方して…」

いい歳のオジサンを「ちゃん」呼びするのが、まーくんは気に入らないみたいで、毎回注意されちゃう。けど、克実ちゃんは、

「おう、また観に来な」

って笑ってくれる。
じゃあねぇって手を振ってアパートを出た。

「かずはさぁ、気を許しすぎじゃない?」
「何がぁ?」
「いや、だって、甘えすぎだろっ」
「えー?そう?」

だって克実ちゃんちのテレビ、すっごい大きくて、なんか音響もいいんだもん。
たまに部屋に上げてもらって、名作映画とか、サスペンスドラマとか観せてもらってる、でもまーくんはそれがイマイチ気に入らないみたい。

「まーくんだって一緒に観たりするじゃん」
「それはそうだけど。少しは遠慮ってのも必要だって言ってんの」

ごちゃごちゃ言うまーくんを遮るように俺は「あっ!今日ゴミの日だ!」と驚いてみせた。もちろん嘘。
でもまーくんは律儀に反応して、ハッとアパートを振り返ったから、その隙に俺は猛ダッシュ。

「ちょっ、…もおぉ!ふざけんなよぉ」

爆速で追いつかれて、あっという間に確保された。首根っこ掴まれて顔を覗き込まれる。

「そーゆーことする子は、今夜お仕置な」
「えっ…」

ピッと眉を上げ、妙に色気のある目つきをするまーくんに、俺はゾクゾクした。いつの間にこんな顔できるようになったんだろう。
無邪気な脳天気少年はもういない…。
うれしいような寂しいような、フクザツな気持ちに襲われて、俺は口ごもってしまった。

「昼メシ、かずの奢りな!」

そう言ったまーくんは、くしゃっとした笑顔になり、俺の手を握って走り出した。

「なななんでだよっ」

口では文句を言いながらも、俺の胸はドキドキときめいてたりして。
結局なんだかんだ、まーくんには勝てないんだよ。