「にのがいつもお世話になってます」

翔が進み出て本郷博士に頭を下げた。
やはりにのの仲間のうちでは唯一マトモだと、博士は少し安心する。

「はいはい、もうコレ取るよ」

そんな翔の後ろで、雅紀がにのの頭からリボンを取り外している。
やっぱりコイツはめんどくさいな、と博士は眉間に皺を寄せ、うんざりした。

アンドロイド「白雪」には買った時から、制服の代わりにメイド服とリボンを身につけさせていた。それも特注品で、博士の力の入れ具合がわかるものだった。
姿がにのになっても、とても似合っていてなんの問題もなかったのでそのままにしてある。
…にも関わらず、この過保護と甘やかしの権化は大変お気に召さないようだ。

「今日は三浦先生に用があってこちらまで来たので、ついでに迎えにきたんです」
「あぁ…そうでしたか」

滑らかに説明する翔だが、博士はその後ろの二人が気になって返事もそぞろになってしまう。
にのの嬉しそうな顔が眩しい。
恋人の前でだけ見せる顔。
それが垣間見えて、なんだか胸がそわそわする博士なのである。

「まーくん、疲れたぁ」
「はいはい、しょーがないなあ」

雅紀がにのを抱き上げる。

確かににのの脳は疲れやすい状況にはあるが、そこまで酷使していない。博士は心の中で、(けっ!)と毒づき目を逸らした。
それなのに雅紀が眼前に迫ってくる。

「このメイド服、なんとかならないですかね、博士!」
「…本人がイヤがるなら考えるが」

別に強要したい訳ではない。
博士にそう言われて、雅紀が目を輝かせた。

「にの!変えてもいいんだってさ!」
「えぇー、俺別にどっちでもいい」
「はぁ?なんでだよっ」

まるで漫才である。

「いつか男の身体に買い換えるんだろっ!?」

雅紀の言葉に博士はギョッとする。
ナニヲイッテイルノダ、コイツハ?
驚いて固まっていると、翔が雅紀の肩を押さえた。

「急にそんな事を言うなよ」

そうだそうだ。コイツがマトモでよかった。
ホッとした博士が翔の方に少し近づいた時、

「まぁ、いずれの話です。その時はどうかよろしくお願いしますね」

と、爽やかな笑顔で翔が言った。

その言葉にボーゼンとする博士。
翔よ、おまえもか…!と、開いた口が塞がらない。

脳はにのではあるが、外側のボディ部分はアンドロイドを買った俺のものなのだが!?

そもそも、にのの仲間に「マトモ」を求める自分がおかしいのかもしれない。
そんな不安と絶望の底に突き落とされた博士である。


日も暮れて、月が照らす夜道を賑やかに帰っていく三人を窓から見送る博士は、前途多難であろう未来に大きなため息をもらした。








おしまい