「…にの?」

そっと声をかけるも、返事はない。
にのは天井を見上げてぼんやりしているように見えた。そのうちゆっくり目を閉じながら、

「きもち、いい…」

と、ふわふわした声でつぶやいた。
声だけでなく、仕草もふわふわとどこか夢見がちな感じで、甘える子猫のように顔を雅紀に擦りつけてきた。

「気持ちいいの?」
「ん。…ふふっ」

うっとりしているにの。
ホッとしながらも、雅紀は不思議に思う。

今のにのの身体に「感じる」能力はない。
いかに裏用のボディのその部分を移植しても、そのためのプログラムを入れていなければただの穴である。しかも、プログラミングされたとしても、行為に対する反応を返しているだけで、言わば「ボタンを押すと電気がつく」のとなんら変わらない。
アンドロイドのゆき(にののボディの主)は、そんな風な事を言っていた。共鳴できる記憶や経験がないと「気持ちいい」と感じないはず。

かといって、そんな経験があるようには見えなかった。

「まーくんがすんごい気持ちいんだなって、そんでイッちゃったんだなってのが伝わってきてさ…したら、俺もなんか、めっちゃ気持ちくなった」

ふわふわ舌足らずにそう言って、また眠そうにしてるにの。この前とよく似ている。
だから眠ってしまう前に、ギュッと抱きしめて、心からの気持ちを伝えた。

「大好きだよ」

小さな返事が聞こえた気がして顔を見たら、もうすぅすぅ寝息をたてている。
その可愛い寝顔をしばらく見つめていた。

上手くいったのか、そうではないのか。
正直よくわからない。
けれど、不思議な満足感に雅紀もふわふわした。こういうのもアリなのかもしれない。

それからベッドの上をひと通り整えて、忘れずに充電コードを繋ぎ、一息つく。
キッチンに冷たい水を取りに行き、飲みながら戻ってくると、ベッドのにのと目が合ってハッとした。

起きた?
いや、「ゆき」ちゃんか?

「マサキさま」

何を言われるのか、雅紀は無意識に身構える。少なくとも今日も充電コード、わすれてないからな!