もちろん、本郷博士は自分たちを救ってくれた恩人である。それはよくわかってはいる。
しかも、普段の仏頂面からよくわからないが、そこまで悪い人ではない…気もする。
などと重々承知の上ではありながらも、雅紀は本郷博士が苦手なのだった。
「なぜに?」と、翔に聞かれても上手く答えられない。何がって、どこがって…。
例えば、今。
「にの」なのに、アンドロイド「白雪」(名前は「ゆき」)の時のメイド服を着せているところ。しかもリボンつき。本来「白雪」はロングヘアをまとめてリボンをつけるのが定番らしいが。
そりゃ、めっちゃ似合ってて可愛いけどさっ。違うんだよ、違うんだって!
似合うからと言って、にのに女の子になって欲しいわけではないのだ。これまで通りのにのでいてほしいだけなのに。
博士の「ゆき」じゃないの!「にの」なの!
俺の、にのなのに。
腕の中にガッチリにのを抱え込んで、文句のひとつでも言ってやろうと雅紀が口を開いた時。
「にのぉ!おっかえりいーー!」
智のノーテンキな声とともに、翔たちが開いているドアから賑やかに入ってきた。
皆それぞれ手にお土産らしき袋をさげ、潤は両手に小旗も持っている。
そして、本郷博士の姿に気がつきピタッと動きをとめた。
「……本郷、博士?」
翔が遠慮がちに声をかける。
博士は目の前の雅紀と、雅紀に抱えられているにのをじっと見据えて、タブレットを取り出した。
「言っておくが、外側のアンドロイドは俺の『白雪』だ。研究のため提供はしたが、所有権は俺にある」
「は、はああ!?」
声が思わず裏返る。
雅紀は慌てて、にのを自分の背中に隠した。
「なっ中身はにのだぞ!」
「そんな事はわかっている」
博士曰く、秘書兼メイドとして購入したアンドロイドである。今回の件で長期間に渡って不自由していると。
「従って、早急に本来の仕事に戻ってもらいたい。早ければ早いほどいい」
「そそ、そんな、帰ったばっかりなのに…」
「では、新しいアンドロイドをおまえが買ってくれるのか?」
最新のアンドロイド「白雪」を?
とんでもない金額に決まっている。
本郷博士の無茶ぶりに、雅紀は歯噛みした。
「…まぁ、できるだけ早めの復帰でよろしく」
本郷博士はそれだけ言うと、くるりと踵を返して部屋を出ていった。
雅紀をはじめ、皆ボーゼンと見送る。
にのだけが雅紀の背中に頬を擦り付けて、満足そうに笑っているのだった。