「自由にするって…どういう事だ」

翔が厳しい表情で、本郷博士に向き直った。
確かに身体の麻痺はリハビリで回復することもあるだろう。しかし、そのためにはかなりな時間と努力を要するはず。
博士の言い方からは、そうは感じられなかった。

「文字通り、自由な身体を手に入れる」
「自由な身体?どうやって…」

本郷博士は自分のアンドロイドに歩み寄って、そのリボンをつけた頭を指さした。

「彼の脳を、この子に移植する。そうすれば直接世界と繋がれる」

またもや、部屋の中がしんと静まり返った。三浦医師の手を擦り合わせる音だけが、カサカサと耳についた。
一番初めに潤が反応した。

「えっ?ええと、それって、にのが機械の身体になる…って事?」
「そうだ。そして自由になる」

迷いなく答える本郷博士に、今度は翔が反応する。声には怒りが込められていた。

「…ふざけるな」
「ふざけてなどいない。その方法なら、多くの問題が解決だ。身体の麻痺も介護の問題も、病すらクリアできるからな」

その答えに、翔は顔を歪めた。

「そんな技術は確立されてないはずだ!SF小説じゃないんだ、現実世界ではまだ成功したなんて聞いたことがないぞ」
「理論上は可能だ」
「ふざけんなよっ、そんなの、机上の空論と言うんだ!」

熱くなった翔に襟首掴まれた本郷博士は、冷静に翔を見つめ返す。

「確かに成功率は高くない。なにしろデータ不足だしな。リスクが高いのは事実だ」
「…おまえ、にので実験する気かっ!?」

翔の手が震えた。

二人の会話で、本郷博士の言動の意味を知った雅紀は、ガクガクと膝が震えるのを感じた。
思わずにのを見ると、にのは無言で、瞬きもせず、じっと雅紀に握られた自分の手を見ていた。
次にアンドロイドのにのを見ると、アンドロイドも瞬きせずに前を見つめている。全くの無表情で、まさに人形のようだった。

二人とも博士の計画を知っている、のか。

雅紀にはその事実がより恐ろしかった。
握ったにのの手が冷たかった。

されるがままだった本郷博士が、自分の胸ぐらを掴む翔の手を逆につかみ返し叫んだ。

「だったらどうするんだ?このまま彼をこの部屋に閉じ込めて、ほんの仮初の体験で満足させ、動かない身体で死を待てと言うのか!?」

翔はとっさに返事ができなかった。