はやる気持ちと躊躇する気持ちがない混ぜになって、雅紀の足がもつれる。
よろめきながら近づいたカプセルベッドには、果たしてにのが横たわっていた。
にの。
呼んだつもりが、口の中がカラカラで声にならなかった。
いた。
こんなところに。
やっぱり病院にいたんだね。
カプセルに手をついて、雅紀は呻いた。
にのは目を閉じ、ぴくりともしない。
生きているのか、それとも……。
不安な気持ちでアンドロイドの顔を見た。答えを知りたいのか知りたくないのか、自分でもわからない。アンドロイドが口を開く。
「キスしてみたら?」
予想とはあまりに違う言葉に、ポカンと呆気にとられた。
「…え、ええ?」
「だって、お姫様は王子様のキスで目を覚ますんでしょ?」
王子様って。
雅紀はまじまじとアンドロイドを見つめた。
冗談…言ってる?アンドロイドって冗談とか言えるんだっけ。
しかし、至って真面目な様子だ。メイド服を着てリボンをつけているアンドロイドのほうが、お姫様のようだったが。
戸惑う雅紀をよそに、アンドロイドはカプセルの上半分を覆っているガラスのフタを押し上げた。そして、さぁどうぞと言わんばかりに雅紀をベッドへ押しやった。
「ちょっと待って。そんな事されたらイヤかもしれないだろ。てか、イヤだろ、ふつー」
「ほんとにそう思うの?イヤがるって」
「だってキキキスとかさぁ…」
尻込みする雅紀に、アンドロイドの口が呆れたように尖る。
「まーくんはバカなの?」
前も言われた気がする、「バカなの?」発言。雅紀はムッとして、半ばヤケクソでベッドのにのと向き合った。
半年ぶりの愛おしい子は、髪の毛が伸びて本当にお姫様のようだった。
よく見ればたくさんの管が頭や首、腕に繋がれており、僅かな電子音がしていた。
…生きてる。
安堵のあまり雅紀の目に涙が溢れる。
顔を寄せ、恐る恐る触れた唇は温かく柔らかかった。