目の前には、新旧の建物が並び立つだだっ広い敷地が広がり、遠くにチカチカと赤色灯が音もなく光っている。
呆然としてブレーキを踏んだままの翔の車の横を、新たな救急車が慌ただしく追い越して行った。他の3人はキョロキョロと辺りを見回した。

「…ここって、翔ちゃんの居た病院じゃん」

そう。翔が学び、働いていた大学病院だった。そして、事故にあったにのが運び込まれた病院でもある。

「タング、ほんとにここ?」
「ココ!」
「確かに地図上でもここだね」

「エッヘン」とそっくり返るタングの後ろで、雅紀と潤がパソコンで何度も確認する。かなり端のほうだが、間違いなくこの病院内のようだ。

「まぁ、にのが入院してたんだし、別にそれほどヘンでもないんじゃね?」

智はのんびりそう言ったが、翔は更に眉間にしわを寄せた。

「でも、アンドロイドのにのを連れ出したのは本郷博士なんだろ?病院と何の関係があるって言うんだ…」

どうしたって、本物のにのとの関連を考えてしまうではないか。翔は嫌な予感に襲われ、ハンドルを持つ手が震えた。

「行こう、翔ちゃん!」

戸惑う車内で、雅紀が力強く言った。
今は迷っている時じゃない。とにかくにのを探さねば。ほんの少しの可能性でも逃したくない。

「…そうだな!」

キュッと前を見つめる雅紀を振り返った翔は、やはり力強く応えた。
こんなハッキリした雅紀は久しぶりだと、こんな時だが、なんだか嬉しくなる翔なのだった。


タングの示す場所は、立ち並ぶ病棟、研究棟の更に奥にある背の低い建物だった。
翔がまだいた頃すでに取り壊しの計画が出されていた旧館だったため、てっきり最新の建物になっていると思っていた。だから、未だに古いまま、ろくに明かりもない状態で放置されている事に、翔は驚いた。

「ほんとにここ?」

雅紀が伸び上がって、入口の曇った窓ガラスを離れた場所からうかがう。

「ココ!にのココいル!」
「でも、こんな所に一体なんで本郷がにのを連れてくるんだろう。一緒じゃないのかな」
「正確には、にのの体内に入ってる特殊金属がここにあるって事だからなぁ」

潤の言葉に、雅紀が敏感に反応する。

「……ここにいないかもって事!?」
「可能性の話だよ」
「にのココいル!」
「しぃー!静かにしろって」

24時間稼働している大学病院ではあっても、夜間である。警備ロボットに見つかると面倒な事になるのはわかりきっていた。
翔は唇を噛んだ。

「入ってみりゃわかんだろ」

智がそう言って、素早く入口の扉に近づきしゃがみ込んだ。手には針金。

「古い物はいいよなぁ」

そして目の前の鍵穴に、嬉しそうにその針金を突っ込んだ。