もし、本郷博士がアンドロイドのにのを取り戻していったのだとしても、どうすればいいのか。博士の所在も、連絡先もわからない。
「……にの…どこにいるの」
まただ。と雅紀は思う。
本物のにのもどこにいるのかわからない。その上また、アンドロイドのにのまで…。
泣くまいと思うのに勝手に涙が溢れてくる。泣いている場合じゃないのに。
重苦しい空気に包まれたその時。
潤がハッと顔を上げた。
「もしかして、居場所わかる、かも!」
潤の言葉に皆が色めき立つ。
「どどどどこ!?どどどうやって!?」
「おちおちつけまさき!」
「あんのやろーー」
またもや部屋の中は大騒ぎになった。
「実はね。俺たち、にの…アンドロイドのにのに頼まれた事があってさ」
先日の餃子パーティの時、工房の二人にアンドロイドがお願いをしてきたと言うのだ。
「物を食べられるようになりたいの」
と、にのは茶色の瞳をうるうるさせて頼んできたらしい。
この世にはそれこそ性のお相手も可能なアンドロイドも存在するし、物を食べられるタイプもいる。しかしにのはそうではなかった。
しかも、物を食べるための改造はかなり大掛かりになるだろうし、簡単ではない。なんなら、その機能のついたアンドロイドににのを移したほうが簡単ですらある。もちろんどちらにしても大金がかかるのは言うまでもない。
「やっぱり無理?」
にのにしょぼけた子犬のような顔をされて、二人は考え込んだ。
「そんなに食べたいの?」
「ん!餃子一個でもいいの!」
「なんで?」
「まーくんにおいしいって言いたいから」
瞳をキラキラさせるにのを見て、潤は必死に考えた。
口に入れるだけじゃ食べたとは言えない。一口だけでも飲み込まなければ。しかし、アンドロイドの内部はフクザツで食道や胃があるわけでもないし、異物で壊れる可能性もある。
「で!思いついたんだ!」
口の奥に特殊な流体金属を入れて物を食べる。食べ物はバラバラにならずにアンドロイド内部の隙間に入り込み、あとからその金属の吸着媒体を使って取り出す事ができれば。
「今日その実験をして、とりあえずクッキーを食べてもらったからさ。特殊金属がにのの中に入ったままなんだよね」
その金属自体が発光しており、もし物質を透過して検知できれば見つけられるというのだ。あまり遠くては難しいようだが。
「光るスライムが入ってる…みたいな?」
「でも、体の中だよ?外から見えないよね。透けて見えるわけじゃないのにどうやって検知するの?」
「それはね…」
潤はニヤリと笑うと、部屋の隅を指さした。
「コイツがやるんだよ!」
指の先には、翔の診察を手伝っているロボットがちんまり座っていた。