「…なんでそんなに『まーくん』って呼びたいの?急にさぁ」

返事に困って雅紀は聞き返した。
アンドロイドはキレイな茶色の瞳で、雅紀を真っ直ぐ見つめた。

「マサキさまに元気になって欲しいからです」
「…え、まーくんって呼ぶと、俺、元気になるんだ?」

感じが悪いとは思ったが、つい鼻で笑ってしまった。そんな事で立ち直れるのなら苦労しない。
けれどアンドロイドは気にするふうもなく、小さな手を両方ぐーにして、

「ジュンさまが言ってました!」

と、鼻息荒く断言する。
潤のやつ余計な事言いやがってと、雅紀は心の中で舌打ちをした。

「ジュンさまだけじゃないですよ。サトシさまもショウさまも、皆さんマサキさまをとても心配しています」

アンドロイドの優しい声に、心の中で次々に湧き出ていた文句がピタリと止まる。雅紀はガックリとうなだれた。
自分でもわかってはいる。
このままではダメだということ。
辛いのは俺だけじゃないって事も。

「悲しんでてもいいよ、でも俺、まーくんって呼ぶから一緒に元気になる練習しよ?」

アンドロイドがにのの声でにのみたいなしゃべり方で言った。「こういう感じがいいんだよね?」と笑うアンドロイドの顔を見て、雅紀は鼻をすすった。

「まーくん」

優しい甘い声。
今のは本物のにのじゃなかったかと、雅紀はハッとする。錯覚だろうか。それくらい似ていた。

「…にの」

自然と応えていた。
アンドロイドのにのの小さな手が雅紀の頬につたう涙をそっと拭ってくれた。それを大人しく受けながらも、雅紀は大事なことを伝えた。

「けど、本物のにのとは別だよ。そうじゃないと帰ってきた時、にのが困るから…」
「もちろんだよ、わかってる」

そうだ。これは練習なんだ。
俺はにのの事を諦めてないし、絶対忘れないし、これからも待ち続けるんだもの。

改めてその想いを噛みしめる。

それから、再び餃子を作るために、アンドロイドのにのの小さな手を握って一緒に立ち上がった。するとアンドロイドは設定通り、きちんと耳を赤くしたのだった。