アンドロイドは雅紀を椅子に座らせ、袋から出した餃子の材料を並べて手を洗っている。
「俺もやるよ」
「大丈夫です!指示してくださればわたしがやりますので」
言葉は相変わらず丁寧だが、今日は少しテンション高めなのか、声が弾んでいる…ような気がする。潤がなにか手を加えたのだろうか。
「白菜、買ってきてくれたんだ。俺の餃子、キャベツじゃなくて白菜使ってんの、知ってたの?」
「…え?あの、ジュンさまがそうじゃないかって…言ってました」
「へー?」
まぁ、潤は食にうるさいからなと、雅紀は納得して、生姜を多めに切るように指示する。そう、雅紀の餃子は生姜がたくさん入っているのだ。
台所にニラの強い匂いが漂う。
料理なんて久しぶりだと雅紀は懐かしいような気持ちになった。包丁を使いたくて、腕がムズムズするようだ。
そうして、材料をボールに入れて味付けをするところまでたどりついた。
「もしあれば、エビのたたき身かすり身を少し入れるとおいしいよ。隠し味っていうか…」
雅紀が説明している間に、アンドロイドは迷いなく、
「オイスターソース2秒!」
と言って、スプーンで計りもせずオイスターソースを瓶から直接注ぎ入れた。塩も砂糖も計っていたのに。
それを見た雅紀はハッとして椅子から立ち上がった。思わずアンドロイドの手を取る。
「なんでソレ知ってんの?」
「え?ソレ?」
「今、秒で計ってたでしょ」
「あっ、………ジュンさまが…」
あぁ、なんだ、潤が教えたのか。そう、そうだよな。そりゃそうだ、この子が知ってるわけない。もう半年以上料理をしていないのだし。
…にの、かと思った。
雅紀が調味料を入れる時に、何秒かで調整しているのを、にのはいつも面白がっていた。いつぞやは、「塩 ひとつまみ」を「ひとつかみ」と言ってしまって、にのに大笑いされた事もある。
そんな一瞬一瞬が思い出されて、目の奥が熱くなる。ヤバい泣きそうだ。
「泣かないで」
ふわりとした優しい言い方に、雅紀はアンドロイドの顔を見た。そこでふと気がついた。
頬が、というか耳が赤くなってないか?
今までそんな事あったっけ。